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郷土芸能「安政太鼓」

私が上富良野駐屯地に来たのは、昭和四十七年一月でした。盆太鼓をたたくことは子供の頃からの趣味の一つで、それまでも機会を求めてたたいていました。この町に来た最初の年は駅前の櫓で四、五人が一つの太鼓を交替でたたいており、遠慮もあって下から眺めていたのですが、踊りの賑わいに比べて太鼓がちょっと寂しいなあと、思ったのが正直の感想でした。翌年から、当時五百円で借物の太鼓を持参で仲間入りさせて貰ったのがこの町での打初めでした。その後、駐屯地で買って貰って太鼓の数も三個になり、南田 弘、新屋淳一(故人)氏とで一人又一人と若手を育て年毎に櫓の上が盛り上って来たのです。
この度「安政太鼓」を記すにあたり、忘れることの出来ないのは、この人抜きで安政太鼓を語れない、と言える程で、且つ私のその後の人生を決定つけた魚屋のオヤジこと「故仲島徳五郎氏」の存在と、その出会いなのです。
わが町に初の郷土芸能として安政太鼓設立に奔走し、後に町議会議員、商工会長も務め、昭和六十年七十七歳で他界されるまで、保存会の後援会会長として筆舌に尽くし難いご指導ご支援を下されました。
氏は、山形県の現天童市で、当時としては珍しい、指先で操る人形芸の一座を率い、自ら客の「寄せ」から「散らし」までの太鼓をたたき、それを職業として県内外を興業して廻り、その当時、使われていた貴重な品々は現在も故郷天童市の郷土資料館に大切に保管されてあるそうです。後に会の練習会場で長胴締太鼓でその曲をただ一度だけ披露してくれた事があったのですが、おん年七十歳にして、郷愁をさそうそのリズムと撥捌きは、まさに鼓道の技であり氏の若い頃を髣髴させ、私達をびっくりさせたのでした。機会をのがして、それを伝授して貰えなかったことを、既に一線を退いた私ですが現在でも大変残念に思っております。
この様な、太鼓の大先輩であったことを未だ知る由もないその頃でしたが、盆太鼓が緑で魚屋のオヤジとも急速に親しくなり、度々の誘いを受けるようになり、たまたま自宅に呼ばれた或る日、本町に郷土芸能のないこと残念がりその必要性を力説され、太鼓チームを創ることを熱望されたのです。好きな太鼓でもあり、既に道内各地で郷土芸能の太鼓が活躍しており、私にもその名簿資料や有名になった上川町火まつり太鼓(リーダーが身内)等の吹き込んだ数枚のレコードも趣味として集めてはいましたが、私自身この土地に骨を埋める気も無かったし、何時又転勤するかも知れない現職なので返事を濁しておりました。その後、雪まつり等で旭川滝川方面に太鼓演奏の見学に誘われ、当時確か無免許の筈なのに商売の自家用車を持ち出して息子さんを困らせたり、何処から手に入れたのか「まつり関係車」のステッカーを貼った車を堂々と会場に乗り入れるその大胆且つ、その手廻しの良さに唖然とさせられたことも度々であり、何時も息子さんに頭を下げて済ませておりました。
それだけ氏は太鼓設立に執着心を持っておられたのだと思います。私が決意して、本格的にこれに取り組む事になったのは四十七年の盆太鼓の終了後でした。関係機関の担当者も含めた具体的話し合いに、実行に向けての必要最少条件「関係機関として駐屯地の了承を得る、金と人の補充に全面的支援協力」を提示、これが認められ準備期を設け仮称「フラヌイ太鼓」を組織することに決定したのでした。
指導に前田 弘氏の協力も得、盆太鼓の仲間六人と町役場の推薦と募集で加わった女性六名を加え、処女曲「火口あらし」の打ち込みに日夜特訓を始めました。
大雪山国立公園十勝岳(標高二〇七七米)にあって、安政初期に爆発したと言われている「安政火口」が地域住民や訪れる観光客からも大変親しまれているところから、当時の町長和田松ヱ門氏命名による「安政太鼓」が、昭和四十八年三月、仲島徳五郎氏を設立発起人として各関係機関をはじめ、多数の町民のご協力を得て、稍(ようや)く難産で誕生したのであります。そして五月末、上富良野神社境内での桜まつりでその産声を響かせたのです。珍しく女性が主力のチームとして本町はもとより道内名地の出演で腕を磨き、釧路市での全国芸能太鼓まつりも更に自信となり、四度の道外遠征(千葉、豊橋、大阪、松山)を基に、平成二年には北海道とカナダアルバータとの記念行事に参加、又本町とカムローズ市の友好五周年記念式典において演奏しており、更に多くの人々から愛される「郷土の太鼓」として保存育成すると共に技術を磨き益々精進を重ねております。
初代会長 前田  弘
二代会長 寺田 忠正
三代会長 木村 伊七
曲  目 火口あらし、噴煙太鼓、火の神太鼓
     怒濤太鼓、北海盆ばやし、大雪厳導太鼓
     大雪連峰太鼓、深山しぐれ
会員数  大人 十名  少年 十八名
(前田 弘・小田島久尚・木村伊七記)

機関誌 郷土をさぐる(第15号)
1998年3月31日印刷 1998年3月31日発行
編集・発行者 上富良野町郷土をさぐる会 会長 高橋寅吉