郷土をさぐる会トップページ     第12号目次

「郷土文芸」

短歌 噴煙短歌会会員作品

青地  繁
百年ぶりてふ大凶作にも耐えぬかん爺婆われらも息子も孫らも
刈れど刈れどたまらぬ籾に苛立ちて今年の冷夏また恨みをり
霙るると思ふほどなる雨の冷え空穂田の畔を濡れつつ見まわる
菊の香と陽の匂ひ空に地に充ちて普遍なるもの遂にほろびず

          渡辺 房子
境内の夏草を刈るボランティア招魂祭の日も近づきて
十勝嶺の冠雪のぞみ街路樹も日々彩を変え秋深みゆく

       久保 美音
充ち足りてあり経し吾に空洞のあるを知りたり姑逝きてより
朱に冱えてナナカマドの実北風に揺すられつつも空に枝張る

        成田美喜子
手を伸ばし十勝連峰をも引寄せん新世界ヘスタートする時
十勝岳に見とれる我に問ひかけるナゾの微笑みラベンダーの花
光より早く起き出で並び待つ母なる自然十勝の山々

矢野 勝己
皇室の新たな世明け御成婚の民の喜び列島うねる
亡き母を想うにつけて吾れもまた老後を思ふ齢となりたり

中野とみ子
冷夏送り僅かに実りし小豆刈る莢よりこぼるる実の細かりき
かすかなる風に答へて風鈴の音しづけしよ長月送る
かろやかな音たてて昇降機よりすべり落つ初収穫の青き豌豆

水谷甚四郎
改修の犠牲となりし記念松千望峠の主となれかし
亡き父の渡道記念の松なれば千望峠に根付くを祈りて

大場 夏枝
バブル崩壊なんのことやら知らぬこと多くある世の片すみに生く
十勝連峰すでに冠雪くやしきは冷夏のままの青田刈る音

村上喜代美
有難や子等の笑顔が集まりて喜寿の祝の幸をかみしむ
青い海波のしぶきに白い岩浄土ヶ浜のつきぬざわめき

佐々木宏子
北国の短かき秋を惜しむかに山の紅葉炎ゆるがに見ゆ
十勝岳のマグマにおびゆ眼底に高処に白き観音像あり
ラベンダーの丘のなだりに群れとびてふる里恋し蝶か幻

山川ひさの
紅葉を天蓋にして露天風呂雪虫ちらりと湯を恋ひてくる
舞ひ上る天女おもはす羽衣の滝のしぶきに淡き虹たつ
散りてなほ地上いろどる黄葉紅葉終焉もかく美しくあれ

井上 俊孝
実入りなき田の畔に咲く花の色美しけれどこころに染まず
冠雪の十勝の嶺は蒼天に皓々としてするどく光る

門崎 博夫
山々の間近に見ゆる朝なれや霧華かがやく街路樹の梢

大道美代子
どれほどに命あるやも知れぬまま波打つ萩と共に揺れゐる
むらさきの野菊一面に咲き誇る秋を装うに所を変えず
守られつ守りつ今日を生きて在り黄昏の道ながく続ける

俳  句 このみち・りんどう俳句会会員作品

廃校や尊徳像に風薫り      赤間 玲子
爆音の消えしふかぞら初つばめ
火の山に対坐すずしき泥流碑
拓地みな灯を寄せ合へる落葉寒
冬並木去りゆくものの影保ち

闇こがす大文字焼年新た     岡崎トシ子
火の岳は雪を褥に鎮もれり
夏休みプールにはじける子等の声
大花火北斗の影を見失ふ
十勝岳の裾野紅葉のただ一色

愡の芽や母の香はこぶ山の風   金子 スミ
早蕨の小さきこぶしに日のぬくみ
琴の音に遠忌を修す朧かな
雁風呂や旅ゆく人のいづくまで
耳遠くなりきて独り松手入れ

聞き流すことも世渡り芒穂に   佐藤 節子
浮き雲に心を託し芙美子の忌
白樺の肌濡れ色に春の月
特攻の基地や知覧の秋ざくら
睦み合ふ親子三代ねぶか汁

カラ松の凍魚碑めぐる秋の風   鈴木つとむ
初夏や新OLの腕白し
孫ふたりお披露目となる夜店かな
豆にほの丘に連らなる里に棲む
雪渓の裂く白光にたじろぎて

噴火して十勝嶺の雪血の色に   千々松絢子
ラベンダー夢二の少女遠目がち
昏れそめてより紫に雪の嶺
武四郎佇ちし跡なり草若葉
山襞に天女の残す霧の帯

月上げて杜静かなり神の留守   丸山美枝子
ころがりし靴の片方神の留守
狛犬に留守居をあづけ神の旅
すがる葉を一ひらのこし神の旅
火の山の鎮まれと夫注連を綯ふ

火の山の雲上に春来て居りぬ   田浦 夢泉
噴煙を好きになびかせ山笑ふ
ラベンダーむらさきの風入れて撮る
見はるかす千望峠麦の秋
雪の嶺々おのが高さに静みをり

雨上がり十勝連山雪化粧     足立さとし
行く秋に肩をすくめる旅の朝
陽だまりに護ってやりたい赤とんぼ
ひらひらと悲愁漂う赤とんぼ
文化祭手塩にかけし菊かおる

緋のつつじ炎やして響く獅子おどし 加藤 輝子
藤房の揺るるにまかす古稀の庭
沢水の涼しさをよぶ写真展
ダム蒼く懸念なき目の鹿と会ふ
花鋏鳴らして払ふ蝸牛

野に綺羅の星となりたる蕗の薹  菅野 朝子
病葉の空深ければ散り急ぐ
売られゆく馬嘶けり夕野分
時雨虹追はるる如く薯拾ふ
孤独にはあらず冬木に風の唄

初日の出樹海は白き珊瑚めく   白峰 亀庵
うららかや居眠りの夢揺れており
かたくりの花おどりおり地蔵径
火の岳の凍雲鉈のひかり持つ
真冬日の噴煙こころ刃のごとし

十勝岳雪雲あつく鳴動す     菅原 千代
十勝岳煙も見えぬ雪襖
菊花展夫丹精の懸崖も
茄子漬の色よく朝の謄にあり
線虫や外国人の手のぬくし

泥流の止まる山腹初日影     平塚 雅子
凍星へイルミネーション片流れ
月涼し千木の影置く新社殿
渡りつつ鳴く山鳩や開拓碑
除夜の鐘新らしき闇動き出す

鳥威し無意味となりし冷害田   吉岡 光明
神祀るビルの屋上うろこ雲
不稔穂の立ちつくしたる秋の風
紅葉の胸まで染めし露天風呂
無人家にたわわに熟れし葡萄かな

機関誌 郷土をさぐる(第12号)
1994年2月20日印刷  1994年2月25日発行
編集・発行者 上富良野町郷土をさぐる会 会長 高橋寅吉