東中金毘羅神社の合祀
上富良野町東六線北十九号 岩 崎 治 男
昭和十六年四月七日生(七十三歳)
東中神社に収められている額に、次のようにしたためられている。
東中金毘羅神社の由来
東中金毘羅神社は、明治四十三年四月、讃岐の象頭山(ぞうずさん)金毘羅宮の御分霊を拝受して、奉安したのをもって創祀とする。
開拓草創の住民は、最愛の肉親と離れ、遠く懐かしい故郷を後に移住、北国の異なった気候風土、開拓の苦難、加えて襲いくる病魔と闘い、この苦悩を神仏の御加護に祈念すると共に、敬神の念を涵養するため、讃岐出身の方が中心となり、豊穣の神、風の神、水の神に縁のある、金毘羅宮の神を奉祀することを決め、讃岐の象頭山に似た、神秘な当山に、住民多数の寄進を得て祠をしつらえ奉祀せり。
昭和三十一年四月十日
東中金毘羅神社祭典の日
寄贈者 東中市街地 青木 三郎 氏
この額の筆者は、同時に「東中金毘羅神社歴史」と題する毛筆による文書を冊子としてまとめ、奉納している。
中富良野町西中教覚寺住職の荻山深良氏(旭川大学名誉教授)の御協力を得て判読した、「東中金毘羅神社歴史」の全文を掲載する。
掲載省略:写真「東中金毘羅神社の由来を記す額(東中神社収蔵)」
東中金毘羅神社歴史
筆者の言
筆者は、昭和二十二年五月樺太より引揚げこの地に草鞋をぬぎ人生の再出発をするに当り御当地諸氏の御厚志をうくる事甚だ多しここに衷心より感謝の意を表すると共に偶々この平和郷に鎮座まします御社に詣でその歴史を聞き氏子諸氏の労も知り昔に想いを寄せこの労を稿ふも意義あることと思い本誌を作成せる物にして因みに本誌は古老よりの聞き取りに依るものにして事実と多少異なるやも知れずその点予め御了承を乞う次第である。
掲載省略:写真「平成25年2月10日(日曜日)東中神社へ合祀の日の金毘羅神宮」
神社歴史
御神社は、明治四十三年故太田嘉吉氏、長尾松太郎氏等により、四国金毘羅神社より御神体を受け当所に安置したるものにして、当時仮宮を造る。
太田嘉吉氏、福原巳代治氏、川端勇吉氏、森田喜之助氏、吉川長四郎氏、松原リコウ氏、田井盛蔵氏、三好米蔵氏、十川藤八氏、長尾松太郎氏等の諸氏により、春秋二回の例祭日をもうけ祭式を行いたり。
その後、東九線北十七号(現宮ケ丁氏宅前)にありし八幡宮を現東中神社新築移遷するに当たり、その祠を貰い受け当所に遷し金毘羅神社の御神体を納め、玉島梅太郎、玉島源七、岩山雅太郎、五十嵐亀太郎、谷本彦六氏等も加わり、年々祭式も盛んとなる。
大正六年(今より三十九年前=著者注:奉納の昭和三十一年基準)太田トラ氏内地旅行の際、神楽一組を購入献納あり。次いで、吉河長四郎氏により鳥居献納、玉島伝七氏より洗水槽、吉河峯治氏より錦旗一対等の寄贈もあり、年ごとに参拝者も増加し、余興として昔より子供相撲等を行い人気を呼べり。
次いで、大正十四年、五十嵐農場開放に当たり、五十嵐氏より当神社に一反歩の土地(敷地)の寄贈あった事も、神社敷地として少し不足との意見により、当時の権利者、上田、太田、尾岸(仁)、尾岸(正)、見附、多田、松田、森本諸氏の好意により更に一反歩の寄贈ありたり。
その際境内整備を行い、参道に桜の並木を移植したるも不幸にして枯れ、それに代り落葉松を移殖せるものなり。
追って大正六年には氏子諸氏の御協力により拝殿の新築を見、更に昭和二十八年には御神殿の新築を見たり。
昭和三十年当時氏子(順不同)
堀町林兵衛 太田 政一 青地 春雄
上田 茂松 山口 儀八 見附 三郎
上田 美一 松田吉次郎 江森 孝一
尾岸 仁一 松田 與吉 広瀬 健治
尾岸 正一 松田 勝宗
吉川 吉治 太田 あき
太田晋太郎 松井 清人
掲載省略:写真「『東中金毘羅神社歴史』を納めた箱(東中神社収蔵)」
掲載省略:写真「私(筆者:岩崎治男氏)が持っているのが太田トラ氏寄贈の神楽一組の獅子頭(東中神社収蔵)」
金毘羅神社の合祀
雨の日も風の日も、また旱魃や雪の日も、地域の守り神として一時代を見守ってくれた東中金毘羅神社でしたが、世相の潮流には勝てず、地域の過疎化、若者の後継者不足、守り主の高齢化などにより、東中神社に合祀することに相成ったところであります。
平成二十五年二月一〇日を吉日として、氏子代表や関係者と共に、生出上富良野神社宮司の采配により、合祀の儀が執り行われました。長きに渡り、当神社への御支持、御協力を賜りました皆様に、旧氏子一同心よりお礼申し上げると共に、今は無き「東中金毘羅神社」の歴史を後世に残すためにと、筆を執らせていただきました。
掲載省略:写真「多くの子どもたちでにぎわったかつての東中金毘羅神社祭り(昭和31年4月10日)」
掲載省略:図「東中金毘羅神社周辺図」
掲載省略:写真「最後の社日平成24年4月10日の参詣祈念写真」
機関誌 郷土をさぐる(第32号)
2015年3月31日印刷 2015年4月1日発行
編集・発行者 上富良野町郷土をさぐる会 会長 中村 有秀