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1章 上富良野町の自然と環境 第5節 上富良野の野生動物 77-80p

4 昆虫(チョウ類)

 

 昆虫は全動物の75lを占める生物で、そのうち日本には約10万種以上の種類が生息するといわれている。水田、農耕地、山林、河川湖沼、高山帯と、様々な環境にいろいろな昆虫の適応が見られる。

 なかでも最も人目につきやすく、親しみのあるチョウの仲間は、8つの科に分類され、日本では全部で約300種類近くが記録されている。うち日本に棲み着いているものは200種類以上といわれ、上富良野には約80種類近くが生息している。以下にその代表的な種類を取り上げて紹介したい。

 

 アゲハチョウ科

 この仲間では、ヒメギフチョウ(姫岐阜蝶)、ヒメウスバシロチョウ(姫薄翅白蝶)、アゲハ(揚翅蝶)、キアゲハ(黄揚翅蝶)、カラスアゲハ(烏揚翅蝶)、ミヤマカラスアゲハ(深山烏揚翅蝶)などが見られる。これらは大きくて美しく、よく目立つ大型のチョウの仲間である。

 ヒメギフチョウは早春、明るい林に出現する。カタクリやエゾエンゴサクなどの花の蜜を吸い、午後になって気温が高くなると、林の梢近くを飛ぶこともある。幼虫はオクエゾサイシンという植物を食草とするため、ヒメギフチョウが産卵するためにはこの植物の群落が必要となる。

 

 シロチョウ科

 モンシロチョウ(紋白蝶)、エゾシロチョウ(蝦夷白蝶)、エゾスジグロチョウ(蝦夷條黒蝶)、モンキチョウ(紋黄蝶)などが見られる。いずれも身近な場所でよく見かけるチョウたちでなじみ深い。

 モンシロチョウは田園や農耕地では最も人目につきやすいもので、誰でも知っている種類であるが、もとから日本にいた種類ではなく、遠い昔、アブラナ科の栽培植物と共に日本に入ってきた外来種であるともいわれている興味深いチョウである。

 エゾシロチョウは北海道だけに分布する種類である。市街地の庭から山地まで広く分布する。ときに大発生することで知られている。

 

 シジミチョウ科

 この仲間はチョウのうちでも最も小型のグループである。多彩な種がある。畑地などから山地の林にまでいろいろな種類が分布している。ジョウザンミドリシジミ(定山緑小灰蝶)、ベニシジミ(紅小灰蝶)、ツバメシジミ(燕小灰蝶)、カラフトルリシジミ(樺太瑠璃小灰蝶)などがいる。

 ジョウザンミドリシジミの名の頭についている「定山」は、札幌の温泉地である定山渓のことであるが、定山渓にのみ分布するものではなく、北海道産のミドリシジミ類中、最も広く分布する種類で、数も多い。ちなみによく似た名前のジョウザンシジミという種類の方は、ベンケイソウ科の植物に食草が限られる珍しいチョウとなっている。こちらの方も富良野市での採集記録があるため、上富良野にも分布している可能性が高い。

 カラフトルリシジミは主に道内各地の高山帯に見られるチョウで、天然記念物となっている貴重な種類。瑠璃色をした小さな美しい宝石のようなチョウで、道東では海岸付近の原生花園でも見られることが知られている。上富良野では旧噴火口(安政火口)付近での目撃が報告されている。

 

 タテハチョウ科

 この仲間では、カラフトヒョウモン(樺太豹紋蝶)、オオウラギンスジヒョウモン(大裏銀條豹紋蝶)、アサヒヒョタモン(旭豹紋蝶)、オオイチモンジ(大一文字)、シータテハ(C虫夾蝶)、コヒオドシ(小緋縅蝶)などその他たくさんの種類が棲んでいる。

 シータテハとは変わった名前であるが、これは翅の裏側に英語「C」の文字に似た模様があることからきている。道内では平野から山地まで普通に見られる。

 アサヒヒョウモンは北海道大雪山系にのみ分布する高山蝶で、かつては十勝岳(白金温泉)で数頭が採集されているが、現在では生息していないともいわれている。キバナシャクナゲやコケモモ、ミネズオウなどの高山植物を食草とし、矮性植物群落のほか、ハイマツの上などをひらひらと飛んでいることもある小型の蝶。

 高山蝶とは、地球の寒冷期には広く分布していた種類の蝶であるが、温暖になるにつれて分布をだんだんに狭められ、最後には1年中寒冷な気候の高山帯にのみに残されたものであり、「氷河期の遺存種」とも呼ばれるものである。

 

 ジャノメチョウ科

 蛇目と書いて「ジャノメ」と読む。文字通り、この仲間のチョウの多くが、翅の裏に大きな目の形をした模様をもつ。オオヒカゲ(大日陰蝶)、クロヒカゲ(黒日陰蝶)、ヤマキマダラヒカゲ(山黄斑日陰蝶)、ベニヒカゲ(紅日陰蝶)、ダイセツタカネヒカゲ(大雪高嶺日陰蝶)などが見られる。

 タイセツタカネヒカゲも高山蝶で、天然記念物である。たいへん地味な種類で華やかさはない。植物の少ない岩礫地に生息し、日高山脈では分布域が限られているが、大雪山系での個体数は多い。富良野川上流域での記録がある一方で、大雪山北部、中部と低標高域によって分断されている十勝山系には、食草は在っても本種は分布していないという説もある。今後の詳しい調査が待たれるところであろう。

 

 セセリチョウ科

 セセリチョウの仲間は、体ががっしりとして太い小型のチョウのグループである。キバネセセリ(黄翅弄蝶)、カラフトタカネキマダラセセリ(樺太高嶺黄斑弄蝶)、コチャバネセセリ(小茶翅弄蝶)、コキマダラセセリ(小黄斑弄蝶)などが生息している。

 このうちコチャバネセセリ、コキマダラセセリは人家の周辺から草原、山地の開放地、林道沿いなど人手の入った環境にも多く、最もよくみかける種類で、ときに大発生する。

 カラフトタカネキマダラセセリという長い名前のこのセセリチョウは、地味な色あいをしたこのグループの中では比較的美しいものである。高山蝶の仲間であるが、道東では低地、日高では渓谷などでの記録がある。産地が限られているためか記録が少なく、その生態もまだ詳しくは知られていないという珍しい種類である。