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1章 上富良野町の自然と環境 第5節 上富良野の野生動物 73-76p

2 鳥類

 

 上富良野の自然環境を大きく7つに分けて、そこで見られる代表的、特徴的な野鳥について概要を述べたい。またここで取り上げた鳥類のうち、夏鳥(春から秋にかけて見られる渡り鳥)および留鳥(渡りをせず年中見られる鳥)については、すべて1996年夏に町内の各調査地点において観察されたものである。

 

 高山(十勝岳周辺)の鳥

 ハイマツ林でよく見られるのは、澄んだ細い声でチィーチリリリリと強めに鳴くカヤクグリ(茅潜)である。日本の固有種で、茶褐色の地味な鳥だ。留鳥で、冬期にはハイマツ林から山麓の森に下りてくる。ずんぐりとしたギンザンマシコ(銀山猿子)もまたハイマツ林で繁殖する鳥だ。大雪山系ほか日高山脈、利尻島などの高山帯に生息し、大雪山系が主たる繁殖地となっている。オスは美しい赤金色、メスは鈍い黄褐色。厚い丈夫な嘴でハイマツの松笠を噛み砕き、中の実を食べる。十勝岳温泉周辺や雲の平で繁殖している。冬は平地に降りて越冬するため市街地に現れることもある。

 ホシガラス(星鶉)はハイマツ林からダケカンバ林にすむカラスの仲間。よってガァガァと嗄れ声で鳴く。名が示す通り、チョコレート色の地色に白い星の斑点がよく目立つ。ハイマツの実を好んで食べ、秋になるとそれを喉にため込み、自分のナワバリへ運んでは冬に備えて貯えるという習性を持つ。ナワバリに貯蔵されたまま忘れられたハイマツの種子は、そこから再び芽生えることが多い。鳥による植物分散の好例である。

 

 アカエゾマツ林(十勝岳温泉周辺)の鳥

 見事なアカエゾマツ林のある十勝岳温泉周辺ではルリビタキ(瑠璃鶲)のヒッチョロロという大きな声をよく聞くことができる。青く愛らしい夏鳥だ。フィ、フィと口笛のようにさえずる頬紅を差したようなウソ(鷽)の雅びな姿もよく見かける。繁殖し、冬は平野部へおりていく。主に冬に大陸やサハリンから渡ってくる体全体が黄色いマヒワ(真鶸)も、ここでは夏の間も見られ、繁殖している。

 日本最小の烏であるキクイタダキ(菊頂)やミソサザイ(鷦鷯)もここで子育てをしている。ミソサザイは小さな体に似合わぬ高らかな鳴声を沢筋で響かせる。冬には里の雑木林にやってくる。

 

 針広混交林(吹上温泉〜中茶屋付近)の鳥

 ひとくちに「針広混交林」といっても、エゾマツやトドマツを主体とし、そこにダケカンバなどが混じる標高の高いところの森と、ミズナラやイタヤカエデの混じる平野部の雑木林に近い森と幅広い。よって鳥の種類が最も多い環境である。

 初夏、ヒーツーキー、ヒーツーキと金属的なさえずりを奏でているのがエゾムシクイ(蝦夷虫喰)である。美しいコルリ(小瑠璃)もいる。そのためコルリを仮親とする托卵鳥(カッコウの仲間)であるジュウイチ(十一)も棲んでいる。夜中に森の上空をジュイチー、ジュイチーと声を張り上げながら飛び回ることもある。カミホロ荘で夏の夜の露天風呂を楽しんでいると、ヒィーヒィーと薄気味悪く鳴くトラツグミ(虎鶫)と共に、このジュウイチのけたたましい声を聞くことがある。

 最近、数が減っているエゾライチョウ(蝦夷雷鳥)も、十勝岳山麓林では健在だ。町道吹上線は樹木の観察と共に、野生鳥獣の観察ルートとしてとくに推薦できるラインだが、ここでは子連れのエゾライチョウが観察できる。また天然記念物のクマゲラ(熊啄木鳥)もこの辺りに棲んでいる。黒く巨大なキツツキで、あまり標高の高くない針広混交林を主たる生息場所とする。実はこのキツツキ、巣穴は生木の大木に穿つのだが、餌は倒木や枯死木に巣喰ったアリである。そのため生きのよい大木から老齢過熟木までと幅広い年齢層の樹木が豊富な森でなければ繁殖することができない。逆にいえば、このキツツキが見られるということは、その森の生態的条件が満たされていることになる。クマゲラは、豊かな天然林のバロメーターのような鳥なのである。

 

 雑木林の烏

 平地から丘陵地、低山にかけての身近な林の代表選手といえばまずアオジ(青鵐)とセンダイムシクイ(仙台虫喰)それにウグイス(鶯)といっていいだろう。この3種類は、まず町内のどの林を歩いても見ることができる。そのほかシジュウカラの仲間のハシブトガラ(嘴太雀)やヤマガラ(山雀)、ヒタキの仲間で、色は灰色と地味だが、くるくるした日の愛らしいコサメビタキ(小鮫鶲)、そしてキツツキの仲間ではポピュラーなアカゲラ(赤啄木鳥)が棲んでいる。カラ類とアカゲラは留鳥、他は夏鳥である。

 雑木林にはここにあげた種類以外にも、とくに5〜7月には、ざっと20種類以上の鳥が棲む。早朝にいっせいにさえずるので、その時分に歩いてみるとよい。

 

 写真 アカゲラ

  ※ 掲載省略

 

 カラマツ林の鳥

 いろいろな樹種の混じる天然林(伐採後の2次林も含む)には、様々な種類の鳥が生息する。それはなぜだろうか。樹木の種類が多いということは、それだけ多様な環境が形成されるということだ。林床には多くの花が咲き、そこにはたくさんの昆虫や生きものが集まる。それを食しに、やはりいろいろな鳥が棲みつくことになる。ところがカラマツの人工林のように、人間によって単純化された林には、この生態的な多様さが著しく欠けることになる。

 よって生息する蟲禽獣相もまた必然的に単純なものになる。

 それでも冬になれば木の皮の裏などに隠れている昆虫を探しにカラ類の群れがやってくるし、夏にはアカハラ(赤腹)が繁殖し、下草の少ない地面でしきりに餌を採っている。枝先で青葉についた虫を求めているのは留鳥のヒガラ(日雀)だ。幹をちょろちょろと這い回っているキバシリ(木走)も留鳥である。猛禽類のハイタカ(灰鷹)もカラマツ林に巣を懸ける。

 

 水田・ダム・水辺の鳥

 日新ダムや日の出ダム、江幌貯水池ではマガモ(真鴨)が繁殖している。またアオサギ(青鷺)が岸辺に立って魚を狙っている姿が見られる。春秋にはときにオオハクチョウ(大白鳥)が渡りの途中に立ち寄ることがあるといい、コガモ(小鴨)などのカモ類も飛来する。水田では、北海道ではあまり記録の多くないコサギ(小鷺)というシラサギが訪れていることがある。

 小魚のいる小川や用水路では、春から秋にかけてカワセミ(翡翠)が見られる。富良野川畔では川に棲むシギ類である夏鳥のイソシギ(磯鴫)が飛ぶ。また、開拓期のベベルイ川流域(東中〜中富良野)は大湿原で、かつてはここにもタンチョウが生息していたというたいへん興味深い記録もある(『中富良野町史』)。もちろん今はいない。

 

 市街地・神社林・畑地などの鳥

 庭木の植込などにはシジュウカラ(四十雀)やヒヨドリ(鵯)が姿を見せ、畑地ではムクドリ(椋鳥)やハクセキレイ(白鶺鴒)が地面を歩いている。春先にはヒバリ(雲雀)が渡ってきて空高く舞い上がりさえずっている。ときにノスリ(鵟)というタカが飛んでいたりもする。

 イチイ(オンコ)やマツ類の大木ある神社の林ではトラフズク(虎斑木菟)が止まっているのを見ることもある。

 ウサギのような耳をしたなかなか風格あるミミズクで、目はオレンヂ色をしている。夏鳥として飛来し、山地よりはむしろ平地や神社の大木などで、カラスやタカの古巣を利用して繁殖する例がよく知られている。餌となるノネズミのいる山際の社寺林や学校グランドの並木などがポイントだ。近年は数が減っており、あまり見られなくなった。最近では東中地区の学校林で越冬が確認、撮影されている(福田基久氏の記録による)。

 

 写真 トラフズク

  ※ 掲載省略