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1章 上富良野町の自然と環境 第4節 上富良野の植物 52-53p

3 十勝岳噴火の植物への影響

 

 溶岩地帯の植生

 十勝岳をはじめとする連峰の山麓には、針葉樹と広葉樹とが混じりあってできた針広混交林の広がりが見られるが、大正15年に起きた噴火の際の泥流で、既存の森林が一部失われた。泥流跡地の爆発以前の植生については、三段山(1740b)の西斜面から推察できる。ここは泥流の被害をあまり受けなかった地域である。現存植生は上からハイマツ林(林下にキバナシャクナゲ、エゾイソツツジなどが見られる)、ミヤマハンノキ林、ダケカンバ林、チシマザサの群落などを経て、アカエゾマツの森へと移行している。

 森林状況の項でも述べた通り、十勝岳北西斜面には、その影響の痕がはっきりと見て取れる。植生は、稜線から噴気孔一帯の裸地(無植被地)から高度が下がるにつれて新期火山荒原草本群落→シラカンバ再生林へと移行していく。

 泥流の影響のため土壌化が進まず、植物が疎らにしか見られない溶岩の岩礫地を下っていくと、やがて標高1500b付近からイワブクロ、メアカンキンバイ、ミヤマクロスゲ(カヤツリグサ科のスゲ、深山黒菅)などの群落が散見されるようになる。さらに100bほど下がると、今度は高山植物ではないオオイタドリ(平地から山地の道端、川沿い、海岸などにも繁茂しているタデ科の草本、大痛取または大虎杖・白)が目立つようになってくる。

 その他にはコメススキ(イネ科の草本、米薄)、ウラジロタデ(裏白蓼・白)、イソツツジ、シラタマノキ、クマイザサなども見られる。これが「新期火山荒原草本群落」と呼ばれる植生である。酸性度に耐えうる樹木草本しか育ちにくい厳しい環境も、年月と共に徐々に土壌が肥えていき、植生もそれに伴って変化(成長)していく。これを「遷移」というが、当地はその初期段階の状態なのである。

 

 再生林とその植生

 その下方(吹上温泉から望岳台を結ぶラインを中心として前後数`の範囲)には、そうした植物遷移の次の段階が見られる。カンバ類の再生林が続いているのである。シラカンバ、ウダイカンバ、ダケカンバ、ヤマナラシ、ヤナギ類などの、いわゆる「陽樹」と呼ばれる、森林が回復していく際にまず最初に入ってくる樹種が主体となった林となっている。これを「再生林」という。林床にはクマイザサが優占しており、植物の構成要素は全体的に貧しいが、しかしパッチ状にアカエゾマツの林なども見られる。ここもやがてはエゾマツ、トドマツ、ミズナラなど「陰樹」の高木林に変化していくものと思われる。

 この地域は、富良野川の源流域に当たる。もう少し詳しくこの地の現存植物構成を見てみよう。ハイマツ、アカエゾマツ、ミヤマハンノキ、ケヤマハンノキ、ダケカンバ、ナナカマド、エゾノバッコヤナギなどの樹木、シラタマノキ、エゾイソツツジ、ハナヒリノキ(嚏ノ木・緑)、マイヅルソウ、オオバスノキ、クマイザサ、ウラジロタデ、オオイタドリ、モウセンゴケ(毛氈苔・白)、イワノガリヤス(イネ科の草本、岩野刈安)、エゾヒカゲノカズラ(蝦夷日陰蔓、常緑のシダ類)などが見られる。標高1150b以上の、溶岩の露出したところではハイマツ群落はあまり見られなくなり、シラタマノキやウラジロタデ、ミヤマハンノキ、ダケカンバなどが優占する。またハイマツの下にクマイザサの占有率の高いところは、土石流の影響をあまり受けていないところで、こうした場所では高山植物の混在率は低下する。オオイタドリ、ヒメスゲ(カヤツリグサ科のスゲ、姫菅)などが混じるくらいである。

 砂防ダムの造成工事地の付近や沢の斜面には、オオイタドリ、コメススキ、ムカゴトラノオ(珠芽虎尾・白)、ウラジロタデ、ヒメスゲなど、タデやイネの仲間がわずかずつ分布する程度の荒地となっている。土石流の影響の少ないところでは、アカエゾマツ、ダケカンバ、ナナカマドなどの亜高木林が樹高7〜8bの疎林状態でパッチ状に見られる。またその中にはトドマツ、エゾマツ、オオカメノキ(大亀ノ木・白)などもわずかに見られる。草本ではクマイザサが優占しているものの、イソツツジ、ホツツジ(穂躑躅・白)、シラタマノキ、コバノイチヤクソウ(小葉一薬草・白)なども生育している部分もある。

 その他、富良野川源流域の着目すべき植物としてウメバチソウ(梅鉢草・白)、モイワシャジン(藻岩沙参・紫)、イワギキョウ(岩桔梗・紫)などがある。