郷土をさぐる会トップページ    上富良野百年史目次

1章 上富良野町の自然と環境 第4節 上富良野の植物 48-51p

2 十勝岳連峰に見られる高山植物

 

 高山植物とは

 高山植物とは、冬には積雪が少なく低温・強風にさらされるが、夏には比較的長い生育期間がある「風衛地」と、冬は厚い積雪のため低温や乾燥から保護されるが、夏の生育期間が著しく制限される「雪田」によって、種の分布域が決まってくる。

 風衛地には、常緑矮生低木のミネズオウやイワウメ、コメバツガザクラ、チシマツガザクラなどが見られ、土壌の凍結と融解による礫の移動が激しい岩礫地では、コマクサ、タカネスミレ、エゾイワツメクサなどが見られる。

 雪田とは、水はけのよい季節的湿性地である。ここにはアオノツガザクラ、エゾノツガザクラ、チングルマなどが見られ、また雪が消えた後にも土壌に水分が高く保たれる持続的な湿性地では、エゾコザクラ、ミヤマキンバイ、エゾウサギギクなどが見られる。

 そしてその中間的な立地として、ハイマツ帯がある。ハイマツの林縁にはコケモモ、キバナシャクナゲ、エゾイソツツジ、ガンコウランなどが見られる。

 

 富良野岳から十勝岳の高山植物

 では上富良野東端に位置する十勝連峰の高山植物には、いったいどのようなものがあるのかを、具体的に見てみよう。同連峰において、高山植物を観察する好ポイントとしてまず筆頭にあげられるのが富良野岳(1912b)である。

 この山は十勝連峰では南の端に位置し、連峰中では最も緑が濃い。花の種類もたくさんある。また、一般のアプローチも比較的容易である。高山植物を観察する代表的なコースとしては、十勝岳温泉から三峰山山腹をトラバースして富良野岳頂上へと至り、そこから稜線沿いに三峰山を経て、上ホロカメットク山頂上を往復して、再び十勝岳温泉へと戻るルートがあげられる。ここでは種名の後に、花の漢字名と花の色だけをメモしていきたいと思う。

 漢字名はその花の特徴をよく表している場合が多いし、花の色が分かれば、親しみもわきやすくなる。

 さて花見コースの出発点となる十勝岳温泉周囲では、既にハイマツが見られる。その下にはゴゼンタチバナ(御前橘・白)がちらほら。旧噴火口まではウラジロナナカマド(裏白七竈・白)などの落葉低小木などと共に、ミヤマリンドウ(深山竜胴・紫)やクロマメノキ(黒豆ノ木・淡紅)などが多く見られる。やがて道は通称・安政火口から流れ落ちる沢を越えた岩礫地へと至る。そこではエゾイソツツジ(蝦夷磯躑躅・白)、ガンコウラン(岩高蘭・赤)、マルバシモツケ(円葉下野・白)、オオバスノキ(大葉酸木・紅)、イワブクロ(岩袋・紫)、ヨツバシオガマ(四葉塩竃・赤紫)など。三峰山沢付近ではエゾコザクラ(蝦夷小桜・ピンク)、ミツバオウレン(三業黄蓮・白)、コガネイチゴ(黄金苺・白)、コガネギク(黄金菊・黄)などが見られる。

 三峰山のトラバース(横断)上では、エゾノツガザクラ(蝦夷栂桜・赤紫)、アオノツガザクラ(青栂桜・クリーム)、チングルマ(稚児車・白)、エゾウサギギク(蝦夷兎菊・黄)、ジムカデ(地百足・白または淡紅)、チシマゼキショウ(千島石菖・白)、エゾヒメクワガタ(蝦夷姫鍬形・紫)、ミヤマオダマキ(深山苧環・紫)、シナノキンバイソウ(信濃金梅草・黄)などの小規模な花畑がある。

 やがてコースはウラジロナナカマド(裏白七竈・白)やミヤマハンノキの低木帯をくぐる。ここではウコンウツギ(鬱金空木・黄)、イワオトギリ(岩弟切・黄)、アラシグサ(暴風草・クリーム)、ハクセンナズナ(白線薺・白)、オニク(御肉・赤茶)、サンカヨウ(山荷葉・白)の花などがある。稜線が近づくと、トカチフウロ(チシマフウロの淡色型・十勝風露・薄紫)、ショウジョウバカマ(猩々袴・淡紅〜淡紫)、メアカンキンバイ(雌阿寒金梅・黄)、イワヒゲ(岩鬚・白)、キバナシャクナゲ(黄花石南花・クリーム)、ダイセツトリカブト(大雪鳥兜・紫)などが現れる。

 稜線からは急斜面のつづらおりが頂上へと続く。この付近に見事な花畑が見える。ガンコウラン、イワウメ、チングルマ、ダイセットリカブト、ハクサンイチゲ(白山一華・白)、ホソバイワベンケイ(細葉岩弁慶・黄)、エゾツツジ(蝦夷躑躅・紅)、ミヤマオグルマ(深山緒車・黄)、チシマギキョウ(千島桔梗・紫)、ミヤマアズマギク(深山東菊・淡紫)、キバナノコマノツメ(黄花駒爪・黄)、またフクマタタンポポ(二又蒲公英・黄)やコイワカガミ(小岩鏡・紅)、エゾルリソウ(蝦夷瑠璃草・青)は、この山の特徴ある端正な美しい花である。盗掘によって、近年は激減している。

 さて富良野岳頂上から稜線を三峰山へ向かうと、礫地にコマクサ(駒草・ピンク)、イワウメ(岩梅・白)、マルバシモツケ、イワヒゲ、キバナシャクナゲ、チングルマ、エゾウサギギクなどが見られる。三峰山はその名の通り3つのピークを持つ山で、イワブクロの群落が目立つ。そのほかにはミネズオウ(峰蘇芳・紅〜薄紅)、エゾイワツメクサ(蝦夷岩爪草・白)、イワウメ、メアカンキンバイなど。

 稜線はやがて上ホロカメットク山(標高1920b)へと至る。

 山頂部は概ね礫地であり花は少ないが、イワウメ、ミネズオウ、イワヒゲ、ガンコウラン、キバナシャクナゲ、イワブクロ、ウラシマツツジ(裏縞躑躅・クリーム)、コメバツガザクラ(米葉栂桜・クリーム)などが散見され、また南東斜面にハイマツと雪田があり、チングルマ、エゾツガザクラ、ハクサンボウフウ(白山防風・白)、シラタマノキ(白玉ノ木・白)、エゾコザクラなどが見られる。

 ちなみに十勝岳(標高2077b)山頂付近の風衛地には、ミネズオウやイワウメの群落が若干見られる程度にすぎず、高山植物の観察にはあまり適さない。十勝岳はその標高からいうと、ハイマツ林が存在するのが原則であるが、土壌条件がハイマツの生育に不適なために、矮生小低木の群落となっている。また、白銀荘から前十勝付近にはミヤマリンドウやエゾイソツツジの花が多く、町民に親しまれている。

 

 

 写真 エゾイソツツジとアカエゾマツ

 写真 エゾコザクラ

 写真 エゾノツガザクラ

 写真 アオノツガザクラ

 写真 キバナシヤクナゲ

 写真 エゾツツジ

 写真 ミネズオウ

 写真 シラタマノキ

  ※いずれも掲載省略