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1章 上富良野町の自然と環境 第3節 十勝岳火山の形成と噴火 38-40p

3 噴火予測と防災

 

 十勝岳の観測体制

 昭和37年の噴火活動を契機に気象庁十勝岳火山観測所が白金温泉に設置され、昭和39年4月から観測業務が開始された。

 現在、気象庁では62−U火口の北北西4.5`bの地点に地震計を設置し、白金温泉の旭川地方気象台十勝岳観測所までテレメータして常時観測を行っている。

 一方北海道大学では、吹上温泉の送信所をベースにして、地震計5点、空振計1点のテレメータ観測を、また火口の北西2`bの十勝岳観測坑道で、水管傾斜計及び伸縮計の連続観測をしている。辺長測量やGPS観測などの臨時観測も行われている。

 さらに、火山ガス調査が、道立地下資源調査所や東京工業大学などにより行われているほか、噴気や火口壁表面の温度測定が北大や道立地下資源調査所などにより行われている。地質調査所、気象庁、地磁気観測所等の臨時観測もなされている。

 

 北海道防災会議による予測

 今後十勝岳に噴火があった場合に予想される発生場所、時期、様式、災害要因などについては、北海道防災会議が発行した『十勝岳−火山地質・噴火史・活動の現況および防災対策』(本編及び補遺)に詳しくまとめられている。その内容を以下に要約する。

 

 噴火発生喝所

 十勝岳火山群は主に北東から南西へ配列しており、先に述べたように新期の火山活動は火山列の北西側に偏しておこなわれてきた。過去3000〜4000年の間に噴出した場所は、グラウンド火口内(中央火口丘、62火口群)とその周縁(摺鉢火口・北向火口)および焼山などである。以上のうちで、ここ数10年内に噴火が発生する可能性が最も高いのはグラウンド火口内、特にその北西部である。旧噴火口や熊の沢上流部でも噴気活動が行われており、小規模な水蒸気爆発の発生する可能性はあるが、新しいマグマの噴出が行われる可能性は今のところないと推定される。

 

 噴火の時期

 歴史時代に入ってからの十勝岳の噴火活動記録を参考にして、昭和37年噴火から30〜40年後に再び噴火が起こるであろうという予測がある。しかしながら、過去の噴火を詳細に検討すると、噴火の場所、様式、規模などが同一ではない。全く同じことが将来にわたって繰返すという保障はないのである。したがって、次の噴火は今世紀最後の10年間、または21世紀初頭より早い場合も遅い場合もあろう。噴火時期の予測のためには、現在起こりつつある諸現象の観測と解析が不可欠である。

 (※実際には、この北海道防災会議の報告書が出された翌年、昭和63年〜平成元年の噴火活動が発生したわけである)

 

 噴火の性質(様式)と規模

 十勝岳のグラウンド火口内及び周辺では、3000〜4000年前から昭和37年の噴火に至るまで、苦鉄質安山岩の溶岩、スコリア、火山灰などを主に噴出している。苦鉄質のマグマは粘性が低いため、噴出時に破壊的な爆発をおこす危険性は一般的には少ないが、噴火初期に水蒸気爆発による山体崩壊、岩層なだれ、泥流発生(大正噴火)、岩塊落下(昭和37年噴火)などの危険を伴う。火砕流発生(2200年前)や溶岩の流出(約300年前)も考えられる。また噴火の規模は、一応、過去3000〜4000年間の各噴火をめどに予測しておくのが妥当であろう。

 

 噴火の推移

 今後数10年間に噴火が起こると仮定して、最も可能性の高い噴火の推移を予想すれば、およそ次のようなものである。

 @ 前兆数年、特に1年〜半年前から、噴気、地震活動。噴火が近づくにつれ、益々活発化。火口付近に亀裂、新しい噴気孔の形成、その他の異常現象。

 A 初期活動(水蒸気爆発・マグマ水蒸気爆発)地表の岩石を噴き飛ばして水蒸気爆発が始まる。場合によっては既存の山体を破壊、岩層なだれが発生。積雪があれば急速な融雪により泥流が発生し、山麓を襲う。

 B 主活動(マグマ噴火)連続的または小休止をおいて、新しいマグマが火山弾、スコリアとなって噴出する。噴煙は上昇し、主に東側地域に降灰。火砕流の流下も考えられ、積雪があれば泥流が発生する。マグマの粘性が低ければ、溶岩流も流出する。

 C 後期活動噴火は次第に衰え、1〜2カ月または1〜2年間小爆発が断続的に行なわれ、次第にその間隔が長くなり、やがて休止期に入る。

 

 災害要因

 噴火予測に基づけば、主な火山災害要因として次のようなものが考えられる。

 @ 火山弾の落下 これまでの例では落下範囲は火口から水平距離にして1.2`b(大正噴火)〜2.2`b(昭和37年噴火)までであった。着弾距離がどちらの方向にのびるかは、火口の形と付近の地形によって決まる。火口が中央火口丘付近であれば、北西斜面で2.5`b(望岳台の上、標高1020b付近)まで、他の方向へは約2`bまでを危険地帯とすればよい。

 A 火山礫・火山灰の降下 噴煙柱は1万b以上に達し、風下側に火山礫、火山灰が降下する。一般には偏西風に支配され、火山東方に降灰する公算が大きい。分布軸付近の降灰量は、火口から5`bで約10ab、50`bで7〜8abに達し、降灰範囲は道東一帯から千島列島に及ぶ。大気、水質汚染のほか、直接に森林、農作物、人体、家畜などへの披害が予想される。

 B 泥流 規模の大きな火山泥流は、山体崩壊や火砕流に伴う雪氷の急速な融解により生ずる。最も可能性の高いグラウンド火口北西部付近で山体崩壊または火砕流が発生したと想定し、地形から判断すれば、誘発した泥流は大正泥流とほぼ同じ場所を通過する。一方、前十勝岳から十勝岳本峰にいたる部分のグラウンド火口壁は、振り子沢から侵食され極瑞に薄くなっており、噴火により山体崩壊から泥流をおこす危険性も考えられる。この場合、地形から判断すると、泥流は振り子沢から富良野川に流入し、山麓部では上富良野を襲った大正泥流のコースをたどるであろう。

 C 火砕流 2200年前に火砕流(スコリア流)が発生し、白金温泉付近まで流下している。白金温泉付近にはこの堆積物中に炭化樹幹が発見される。このような火砕流の流路(通過域)は、山腹〜山麓では地形に支配され、おおよそ大正泥流の範囲(北部は白金温泉付近、北西部は富良野川流域で標高60b付近まで)が予想される。火砕流は高温(数100〜1000度)で広く地表を被覆するため、積雪時には極めて効率良く雪氷を溶かし、泥流を誘発しやすいので注意を要する。

 D 溶岩流 爆発的噴火に続き、溶岩の流出も予想される。この場合、流出する溶岩はおそらく流下速度はあまり早くなく(毎分数b〜数10b程度)、地形沿いに流下する。その到達範囲は、多くの場合望岳台付近までである。溶岩流により森林火災が発生したり、積雪期には小規模な泥流が誘発される。

 

 ハザードマップの作成

 以上のような北海道防災会議の噴火予測に基づき、上富良野では一般住民にも理解しやすいハザードマップを作成、配布して、平穏時から火山災害に対する住民の意識を高めるよう努めている。

 ハザードマップ(火山災害危険区域予測図)とは、災害要因別に危険区域を想定し、地図上にその区域を示したものである。今後の噴火時の避難行動や、災害を軽減するための施設の設置が、より効果的におこなわれるよう役立てなければならない。