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1 十勝岳火山群の形成史

 

 活火山の定義

 日本では、@過去2000年以内に噴火したことが判明しているもの、A噴気活動の活発なもの、のいずれかにあてはまる火山を活火山と定義しており、北海道には平成9年現在、15の活火山が分布する。上富良野の東部にそびえる十勝岳は、その中でもとくに活発な活動を起こしている火山であり、北海道駒ヶ岳、有珠山、樽前山、雌阿寒岳と並んで、気象庁が常時観測態勢を敷く5火山の中の1つである。十勝岳は、上富良野に温泉や鉱物資源などの恵みをもたらす一方で、たびたび噴火や土石流などで住民を脅かし、一時は上富良野を存亡の危機にまで追いつめたこともあった。本節では、十勝岳連峰を構成する火山群の形成史及び十勝岳火山の噴火史について述べ、それらの専門的知見から今後予想されている噴火活動及び災害要因についてまとめる。

 

 十勝岳火山群の発達

 前期更新世の大規模火砕流噴出(第2節・第2項参照)の後、北東−南西方向(一部北西−南東方向)に配列する火口群から、玄武岩〜安山岩質溶岩及び火砕物の噴出が行われ、十勝岳火山群が形成された。十勝岳火山群は、主峰十勝岳(標高2077b)をはじめ、大規模火砕流堆積物の台地上に噴出した多数の火山体から構成される。南西から北東へかけて、前富良野岳、富良野岳、上ホロカメットク山、十勝岳、美瑛岳、美瑛富士などの山体がほぼ一列に並んでおり、それぞれの火山体の主体は多数の溶岩流が積み重なった円錐火山である。

 十勝岳火山群については、これまでに多くの調査、研究がなされている。岩質は主にカルクアルカリ岩系(一般に、化学組成がアルカリ成分に比較的乏しい岩石系列のうち、珪酸すなわちシリカが増加しても、鉄とマグネシウムの比があまり変化しない性質のものを指す)の安山岩からなることが報告されており、その安山岩マグマは、地下深くから上昇してきた高アルミナ(酸化アルミニウムの割合が高いこと)玄武岩質マグマと、前期更新世に大規模火砕流をもたらしたのち地下浅所に溜まっていた酸性マグマとが、地下で混合してできたものと考えられている。また、十勝岳火山群の形成史は、火山体の開析の程度や堆積物の年代から、大局的に古期、中期、新期の3つの時期に区分されている(表1―3、図1−10参照)。

 古期〜中期火山群は、玄武岩〜苦鉄質(鉄とマグネシウムの割合が高いこと)安山岩の大量噴出に始まり、やがて中性の安山岩の噴出に移行して多数の成層火山を造り、最後に珪長質(珪酸の割合が高いこと)安山岩の溶岩円頂丘(十勝岳山頂部)の形成で終わっている。古期十勝岳火山群を造る山体は、原始ケ原、前富良野岳、大麓山、富良野岳と、十勝岳及び美瑛岳の古期山体などであり、主に玄武岩〜苦鉄質安山岩の溶岩及び火砕物からなる。

 富良野岳上部溶岩は最も苦鉄質(珪酸47l、酸化マグネシウム5.8l)で、かつ高アルミナ質である。中期十勝岳火山群の活動は、古期ステージに引き続く多数の溶岩流噴出で特徴づけられる。初期には、白金溶岩(珪酸52l)、奥十勝岳、上ホロカメットク山、オブタテシケ山、ベベツ岳と、美瑛岳の新期山体などの成層火山が形成された。これらは苦鉄質安山岩〜玄武岩質の溶岩流から構成されている。この中期ステージの晩期になって、前十勝岳や十勝岳溶岩円頂丘が生成された。円頂丘の溶岩はやや珪長質なもの(珪酸61l)へ変化しており、輝石、角閃石、黒雲母、石英などの斑晶を含んでいる。

 完新世に入ると、火山列の北西側に活動域が偏って、苦鉄質安山岩からなる新期十勝岳火山群が生じた。噴気孔や温泉の湧出も、同様に火山列の北西に偏している。このような新期十勝岳火山群の火山活動域や温泉の分布は、前期更新世の大規模火砕流の噴出に伴って形成された火山構造性陥没地(カルデラ)のカルデラ南壁の位置と密接に関連があると考えられている。新期十勝岳火山群のこのような構造は、最近の物理探査による重力、磁気異常分布や、火山性地震の震源分布とも調和的であり、将来の噴火地点の推定の上で重視されている。新期十勝岳火山群の活動は、中期の活動が終わってからかなりの時間間隙をおいて始まっており、今日まで継続している。美瑛富士は、なだらかな形態をもつ成層火山で、その溶岩流は主に北西側へ流下した。鋸岳は、大部分が凝灰角礫岩からなっており、山体の頂部には西方に開いた直径50bの爆裂火口がみられる。一方、ヌッカクシ富良野川上流では、馬蹄形の上ホロカメットク山の爆裂火口が開かれ、その火口から多くの岩層が扇状地堆積物として流下堆積した。

 

 表1−3 十勝岳火山群の形成史(層序表)

   出典 石川俊夫ほか『十勝岳1火山地質・噴火史・活動の現況および防災対策』(昭46)

  ※ 掲載省略

 

 図1−10 十勝岳火山群の断面図(北西-頂上-南東)

   出典 勝井義雄ほか、地質図幅『十勝岳』(昭38)

  ※ 掲載省略

 

 上富良野岳

 ここで、上富良野の開基百年を記念して、平成9年6月に新たに命名され、国土地理院発行の2万5000分の1地形図にも記されることになった「上富良野岳」について触れておく。上富良野岳は、上富良野と南富良野町の境界上にあり、上ホロカメットク山(1920b)と三峰山(1866b)のほぼ中間地点にあるピーク(1893b)で、上ホロカメットク山頂の約500b南西に位置する。ここは、十勝岳温泉郷から登ってくる登山道と連峰を縦走する登山道との、分岐点にもなっている。上ホロカメットク山の爆裂火口底(通称安政火口)から「八つ手岩」越しに望めるほか、好天時には市街地からも見ることができる。なお、大正時代の観光書に載せられた地図には「上フラノ岳」の名前も見られるが、その位置や標高などから推定すると、現在の富良野岳付近を指していたようである。

 これまでの火山地質学的な見地からすると、新たに命名された上富良野岳は独立した火山体ではなく、上ホロカメットク山の一部と見て良さそうである。地形的に上ホロカメットク山爆裂火口の火口縁の1ピークとも見れる。北海道防災会議がまとめた火山地質図(地表地質図)では、上富良野岳が位置する場所は、上ホロカメットク上部溶岩の分布域となっている。

 

 写真 上富良野岳(後方は十勝岳)

  ※ 掲載省略