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熊に襲われた恐怖の思い出

東中 岩部  宣(六十八歳)

昭和三十九年九月二十二日、今から十四年前の出来事、私にとっては忘れる事のできない、まるで昨日の出来事の様に深く心に刻みこまれて居ります。

毎年の行事として、春はわらび、ふき取り、秋はキノコ狩りと私は昔から山歩きが大好きでした。
丁度あの日は雨上がりのキノコ狩りには絶好の日でした。私は自転車を鼻歌まじりにこぎながら山へ向いました。
山の中へ入り一度大きく深呼吸をする……さて、下を向いて歩いているとモコモコと可愛らしい帽子をかぶった沢山のキノコたちが土の中から顔をのぞかせていました。私は夢中でそのたくさんのキノコをカゴの中に入れました。
だいぶ取ったので一寸一休みしようと思いひょいと腰を伸ばして顔を上げたとたん、私の目の前が巨大な物でふさがれました。私は一瞬、自分の目を疑いました。でも、それは夢ではありませんでした。
  「熊?!キャーッ、助けて」
私は夢中で叫びました。
すると熊も私の声に驚いたのかいきなり私の身休に飛びかかり、私は何度もころがされたりひっかかれたりしました。そのうち熊も疲れたのかフーツと大きな溜息をついて山の奥の方へ駆けて行きました。
私は今だと思い、必死の思いで自転車の所まで行き、そこでもう一度
  「助けて」
と大声で叫びました。幸いにもその日、私がキノコ狩りにはいった山の反対側に南組の造林の方たちが来ていて、私の声に気付き
  「今、助けに行くぞ」
という返事がかすかに聞こえました。そのとたん気力を失なった私は自分でもどうなったのかわからなくなり、ただ、
  「しっかりしろ!しっかりしろ!」
と私の耳元でしきりに言ってるのが遠くこだましているように小さく聞こえただけでした。目を開けて気が付いた時、私はベットの上にいました。頭と腕には白い包帯が巻かれていて身動き一つできない状能になっていました。

それから二ケ月間、私は上富良野町立病院でお世話になり、ケガの方も一応良くなり退院の日を迎えたのですが、私の腕はいっこうにして動かず、食事の時おはしも持てないという状態でした。
その後私は、干葉整骨院に通院するようになり、いっこうに動こうとしなかった私の腕が日増しに回復へと向っていきました。その時の喜びは言葉では言い表わすことができないほど大きく、今でもその喜びが私の胸をいっぱいに致します。
確か千葉整骨院が開業されて間もない頃のでき事であったと記憶しています。まだ若かった先生は、優しく、そして一生懸命になって私の動かなかった腕を治療して下さいました。その時の事を私は今も変わらず心から感謝致して居ります。
先生のおかげで今の私は健康な日々を送っています。そして傷跡を見るたびに私は先生のあの時の心からの治療を思い出し、胸の前で手を合わさずにはいられません。
こうして元気に毎日を過ごしている私にとっても先生の今後の御活躍を祈るばかりでございます。

かみふ物語  昭和54年12月 2日発行
編集兼発行者 上富良野町十二年生丑年会 代表 平山 寛