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編集後記

編集委員長 北向 一博

 表紙絵は、いつもお世話になっている佐藤 喬氏に、本号の「学校の統廃合シリーズ」で取り上げた江幌小学校の一九五〇年代の懐かしい姿を描いていただきました。

 『先人の声を後世に語り継ぐ事業』シリーズでは、前第三十四号の前篇に続く「名誉町民 酒匂佑一」氏の後篇を特集しました。
 忍従の時を挟んで三度目の挑戦で、念願の町長の座を得たのでした。
 社会教育総合センター、ロープ式スキーリフト、B&G海洋センター(ハウス式プール)の建設や、十勝岳噴火防災対策、企業・事業所誘致、高齢者事業団の設立など広範な功績を残されましたが、三期目半ばに体調を崩して逝去、波乱の生涯を閉じました。
 酒匂氏は、多数のスポーツ関係団体の設立や運営の中核を担われたことから、これらの経緯についても大きく紙面を割いています。

 同じく『先人の声を後世に語り継ぐ事業』シリーズで『継続こそ力 菅野 學の人生観』として「名誉町民 菅野 學」氏を取り上げ、本誌編集委員の本田邦光氏及び野尻巳知雄氏の菅野氏本人への聞き取りや資料収集等取材協力を得て、同じく編集委員の田中正人氏の執筆により記事がまとめられました。
 菅野氏の、戦時従軍やシベリア抑留体験は、その実態を記憶を呼び覚まして、リアルに記述されています。
 帰郷後、家業の農業に従事する傍ら、農業協同組合の青年部活動に始まり、農業協同組合の理事から組合長へと農協経営の中核を担っていましたが、前述の「酒匂佑一町長」の急逝に伴い、強く周囲から押されて農協組合長を勇退し、町長候補として立起。上富良野町議会副議長を辞して立候補した尾岸孝雄氏との接戦を勝ち抜き、結果として大差の票を得て、町長に初当選しました。
 一期目に様々な政策を打ち、二期目にその結実を得ようと臨んだ選挙に、十票という僅差で敗れ退任されました。在任中に建設が始まった吹上温泉保養センター『白銀荘』の開業を待たず、また、着々と準備を進めてきた上富良野町開基百年事業(平成九年一月〜十二月)を目前にした無念の退任でした。

 続いて、倉本千代子氏による『上富良野に生きて』と題する連載の第一回として、子供時代の旭野の生活を、子供の目線で、家庭と近隣住民、冒険談などを著述されています。
 目の前に当時の光景が浮かんでくるような、絶妙なペンさばきで、実に面白く読める内容となっています。

 次に、当会編集委員三原康敬氏執筆による『「大正十五年十勝岳大爆発記録写真集」の撮影場所』です。
 昭和五十五年に上富良野町が発行した同写真集には、当時の災害記録写真が多数掲載されていますが、災害復旧工事による周辺環境の変化や、年月を経て現在に至る、道路や河川等の社会インフラの整備に伴い、撮影場所が判然としないものもあります。
 これらについて、現地踏査や古い地図との照合などにより、撮影場所の特定や当時の被災状況、復旧事業について考察を加えています。

 平成二十九年二月二十二日に、上富良野町公民館において、戦中及び戦後間もない頃に小学生であった七名の知人・友人が集って、当時を振り返る座談会が催されました。この内容は録音で記録し、出席者の一人でもある当会編集委員の岡田三一氏によってまとめられ、文字化整理されて掲載の運びとなりました。
 戦中戦後の教育や生活環境とその変化が、当時の生の記憶として記述されており、興味深い内容となっています。

 連載の「学校の統廃合シリーズ」では、その六回目として、江幌小学校を特集しました。この回で「小学校の部」は終えることになり、「中学校の部」は連載ではなく、折を得て随時掲載していく予定です。
 寄稿編は、表紙絵もお願いしている佐藤喬氏に相談したところ、快く引き受けていただき、『夢に出てくるエホロッコ―ほんとうの豊かさを問い直した貴重な体験―』と題して、投稿いただきました。
 佐藤氏の長年の教員経歴を知って、学校から依頼を受けた図工指導を通して得た内容を、記述されています。
 資料編は、当会編集委員の田中正人氏が担当されています。連載恒例のとおり、全卒業生の名簿を掲載していますが、個人情報の問題も承知の上、「地域の記憶と記録」とする編集委員の総意によることをご理解願いたいと思います。

 最後は、岳人を慰霊するレリーフが、十勝岳の上富良野登山口中腹に設置された由縁について、当会編集委員の中村有秀氏が『ヒマラヤで遭難した「よう子よ…れい子よ…」の慰霊レリーフ』と題して著述されています。
 一九八一(昭和五六)年九月に、インド・ヒマラヤ『ジャオンリ峰』において、女性だけで結成された「山岳同人タンネ」が、雪崩で遭難して三人死亡し、その中の岳人「田島氏と加藤氏」を慰霊するもので、その由縁はほとんどの人が知らないもので、大変興味深いものです。
          
平成30年3月末日

機関誌      郷土をさぐる(第35号)
2018年3月31日印刷      2018年4月1日発行
編集・発行者 上富良野町郷土をさぐる会 会長 中村 有秀