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千望峠フットパスのオススメ

かみふらのフットパス愛好会会員 岡田三一
  昭和十四年三月二十四日生(七十一歳)

 イギリス発祥のフットパスが、いま、日本でもちょっとしたブームになっています。フットパスとは、「歩く道(散策路)」という意味になりますが、歩くことが健康の維持と体力の増進にきわめて有効であることから、無理をせず楽しみながら歩くパスが、中高年層を中心に全国的に普及することになってきました。
 十勝岳連峰を眺めながら歩く、オススメのコースは何本かありますが、今回は、昨年(平成二十年)の八月三十日に全道大会で使用した「千望峠パス(約十キロメートル)」をご紹介しながら、この地域の歴史や自然・文化についてふれてみたいと思います。

  掲載省略 写真 十勝岳連峰のパノラマ景観

※以下の番号は、コース案内図の番号と一致しています。
[1] 千望峠駐車公園に車を置いて出発。歩くことが目的なのに「家を出るときから車を使用するって、チョット変じゃない」と思われそうな気がしますが、少しでも多くのきれいな景色に触れてみたいということと、自分の体力と時間の関係から、私は車を有効に使うことにしています。
 「かみふらの八景」の一つであるここで、マイカーから降りると、上富良野の市街地と十勝岳連峰が目に飛び込んできます。噴煙がまっすぐに上がっているときは、一日中晴れていることが多く気持ちのいいウォーキング日和です。

[2] 公園から西に向かってスタートしますと、まず、那英山(八一九m)の山並みが見えてきます。幌内山地に属し、神居古潭と同じ地質で出来ています。また、太陽が静かに沈みゆく山であり、ここで暮らす私達には親しまれている山です。
 砂利道を歩き出して、すぐに感じることの一つに、起伏のある地形であるにもかかわらず、農道や一般の道路が直線になっているところが多いことです。平坦で碁盤の目のように交差しているのなら理解できますが、丘や谷が入りこんだ土地でも直線なのは少し不思議に思えるところです。これは、明治二九年のフラノ原野殖民地選定事業の区画割りが、昔からの道路設定の基本となっていることに起因しており、その様子が一目瞭然にわかる場所として、興味深く観察できます。([9]の写真をご覧ください。)

[3] 舗装道路を下っていくと、長谷山さんが脱穀用に昭和の中頃まで使われていた発動機を多数展示しているジャンボ倉庫(鋼材・鋼板製の大型倉庫)が見えてきます。古いトラクターなども並べてあり、無料で見せてもらえます。

  掲載省略 写真 長谷山宅私設農機具展示施設

[4] 江幌ダム(貯水池)に流れ込む小川に沿って森の中に入っていくと、野鳥のさえずりが耳に入ってきます。野鳥にとっては人が近づいたという警戒音を仲間に伝えているのでしょうが、澄みきった鳴き声は、私達を癒してくれます。
 八月の中頃だったでしょうか、妻と二人でここを歩いた時には、小さな池の上をギンヤンマ、オニヤンマの乱舞が見られ、その美しさに感しました。
 谷底を流れる小川に沿って下って行くと、両側には柳の樹林が続いています。
 葉の側面が波うってよじれ気味になっているのが特徴。沢の川筋の湿地に生育し、ここでは密生している。秋から初冬にかけてヌメリスギタケモドキというキノコが樹上に出る。風味に癖がなく美味。また同時期に、この枯れ木や倒木にはエノキタケも出て、店頭に並ぶ暗室栽培のものとは異なる美味を楽しめる。
 この柳がなんという種類なのか知りたくなり、富良野市生涯学習センター(元東大演習林の先生が常駐している。)に持ち込んで調べていただいたところ、オノエヤナギということでありました。その後、どうしたわけか、柳の種類に興味を持つようになってしまいました。

  掲載省略 写真 オノヘヤナギ(ナガバヤナギ)

[5] 江幌ダムの周囲は、自然豊かな雑木林で、種類も多く、夏は「緑のトンネル」をなし、木漏れ日の中を歩くのは涼しくて快適です。ここの小道を歩いていて朴の木(ホオノキ)の花(北海道では六月に開花)に出くわしたらラッキーです。花が大きいことと、その香りの良さは誰もが認めるところで、「森の女王」といってもいいでしょう。
 江幌ダムの水は、水田のかんがいに使われているため、秋には減水状態になりますが、それでも野鳥の楽園です。いつ来てもカモが泳いでいて癒されます。
 ここまで来ると疲れも感じる頃でしょうから、ひと休み。堰堤(えんてい)に腰を下ろしておむすびをほおばりながら、エネルギーの補充を。

  掲載省略 写真 疲れをいやす「緑のトンネル」
  掲載省略 写真 晩秋に冠雪した旭岳、トムラウシ山など
  掲載省略 写真 江幌ダム

[6] ダムを後にして再び舗装道路に出る時に注意してほしいことは、出会い頭の交通事故のことです。見通しが悪いことと、観光ドライブの車が、カーブしている道を猛スピードで通りぬけているからです。
 スタートしてこの地点に辿りつくと、ゴールまであと半分ぐらいの距離です。来るときは下り道で楽々だったでしょうが、ここからは緩やかな上り坂です。人によって差はあるのでしょうが、七十も過ぎるとストックーク(ストックを用して歩くこと)がススメです。
 谷間を歩いて来て急に視界が開ける場所に出ると、今までの疲れがフッ飛びます。十勝岳連峰の左側にそびえる旭岳、トムラウシ山がくっきりと顔を出し、百八十度の大パノラマを楽しめるからです。
 広々とした畑の野道を上がっていくと、コウモリ傘の柄をひっくり返した様な形の黒い太いパイプ(写真参照)があちこちに顔を出しています。

  掲載省略 写真 農業用水パイプラインの減圧弁

 これは白金ダム(美瑛町)の水が丘や谷を越えて、ここの地区まで引いている農業用パイプラインの減圧弁であり、土木工事技術の進歩と大型化農業の象徴として見ることができます。
 この大型土木事業に要した費用は巨額のものであり、その負担は町の財政を圧迫するだけではなく、受益者(農家)負担額も多く、問題になっているとのことです。

[7] 小さな谷を横ぎり、再び舗装道路に出たところに、大きな栗の老木があります。平成二年頃まで佐藤さんが住んでいたところで、戦後の食糧難の時代、同級生の佐藤君は、大小各種の栗を多量に小学校に持参し、私達に小出しにくれたものです。その当時は皮をむくと、生のままガリガリと食べていました。噛むほどに、ほんのり甘くおいしかったことを覚えています。

  掲載省略 写真 大きな栗の木

 このことは、毎年のことだったので、当時はたくさんの栗の木があったものと思います。
 ここから「江花西八線(十字路)」までは、つま先上がりになっていますが、アスファルトの路面は暖かく、早春の頃には雪どけ水がこ踊りしながら流れ下っており、私の大好きな場所です。

[8] 丘の十字路から百メートル程のところに出ると、リンとした見映えの良い大きな赤松があります。根元には「馬頭観世音菩薩」と書かれた小さな石碑があり、昔はこの横に半鐘をつけた火の見やぐらも立っていたということで、見晴らしの良い高台のところです。私にはどういうわけか、昔からここには、「千の風」がたえず吹いているように思えてならないのです。特にサクラが咲く農耕時には……。
 この地区は、草分に最初の開拓者が入地した時から十年後の明治四十〜四十一年に土佐団体、秋田団体、越後団体の入植者によって開拓されたところです。

  掲載省略 写真 赤松に囲まれた石碑
(注一)
「江花百年記念誌」より
 ― 初めの頃は、原生林を切り倒し、造材と炭焼きが行われましたが、開墾が進むと生産の中心が畑作物づくりへと移って行きました。生産の拡大と日常生活になくてはならぬものは、馬でした。自分たちの寝食と共に家族のようにいたわっていただけに、馬頭観音信仰が広がっていたものと思われます。―
 ここに立つ松のこずえを吹きぬける風は、今も馬の香りをのせた千の風になって、この地域を見守っているように思えるのです。

[9] S字カーブの道を下り、右手に登っていくと、再び十勝岳連峰の見える開けたところに出てきます。丘のまち美瑛方面や美馬牛、豊郷、江幌地区の美しい丘陵地を一望することができます。
 この地形は、地質時代から十勝岳連峰の火山活動による噴出物によってもたらされたと言われています。

  掲載省略 写真 昭和30年代初期のイモ掘り(江花百年記念誌より)
  掲載省略 写真 なだらかな丘陵に伸びる道
(注二)
 今からおよそ一七〇万年前に、巨大噴火によって大規模に流出した軽石流堆積物や、噴火で出た高熱の火山灰が降り積もった溶結凝灰岩により、なだらかな広がりを見せる地形ができあがったと考えられています。
[10] 再びスタート地点近くに戻って来ました。農作業をしている人の姿を見かけたり、直接お話しできる場面もあることでしょう。観光客やウォーカー(歩く人)が多くなることに問題はないのですが、マナーの悪い人がいると困ります。特にこの地域の人は、種イモを栽培していることから、歩く途中で「疫病防止のため、絶対に農地には入らないでください」という看板もあります。病原菌が一度侵入すると、その畑の種イモの商品価値がなくなってしまうとのことです。
〈おわりに〉
はじめのところで、中高年の人を中心にフットパスが全国的に普及していると書きましたが、フットパスウォークは、小中高校生にもオススメです。昔、春と秋にはどこの学校でも遠足が行われていました。子ども達にはとても楽しみの行事でした。しかし、今はありません。学校行事の精選で、家庭や地域社会に委ねられた部分と考えたらよいと思います。
 天気の良い日に、おむすびや飲み物を持って家族や友達と出かけてみてはいかがでしょう。歩き出すことで見えてくるもの、考えてみたくなるものなど、脳の活性化にフットパスウォークの効果は計り知れないものがあります。
フットパスウォークに出かける時は、事故防止のため、一人ではいかないようにしてください。家族または友達と一緒だと話しも弾み、より一層楽しいものになるでしょう。
案内図のコースは一般的なもので、何回かウォーキングを経験すると、自分達で独自のコースを設定して歩いてみたいという場合もあるかと思います。マナーを守り、安全性を考えながら、オリジナルなものに仕上げていってほしいと思います。
 案内図の点線で示してあるコースは、雨などで悪路のときや砂利道を好まない人の場合を想定して、回り道として示したものです。
千望峠駐車公園行には、午前中に二便、午後に二便の町営バス(土、日、祝祭日運休)が運行されています。「ひのみやぐら」で下車するとよいでしょう。料金は片道二〇〇円(七十歳以上の敬老パス所持者は一〇〇円)です。

《参考文献》
(注一)江花百年記念誌(平成十六年発行)
(注二)旭川魅力発見伝(平成二十一年発行)

機関誌   郷土をさぐる(第27号)
2010年3月31日印刷     2010年4月1日発行
編集・発行者 上富良野町郷土をさぐる会 会長 成田政一