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自衛隊駐屯地と上富良野町

東京都港区 森野 安弘(七十五歳)

昭和三十年、上富良野町に陸上自衛隊の駐屯地が創設されてから五十四年、今や陸上自衛隊上富良野駐屯地は上富良野町のご協力そして自衛隊の多くの皆さんのご苦労により、歴史的に評価される存在に至ったものと私は思っています。
この五十有余年の中で、私が駐屯地司令として勤務したのは僅かに今から二十年前の昭和五十四年から昭和五十六年の足掛け三年であり、歴史の一端に関わったと言うのは烏滸(おこ)がましい限りですが、少しく当時を振り返り、歴史に留めたいと思うことを申し上げたいと思います。
私が陸上幕僚監部の防衛部・防衛課・業務計画班長から駐屯地司令として着任いたしました当時、既に中央においても、上富良野町と自衛隊との良好な関係はつとに知られている所であり、当時出版されました三浦綾子さんの「泥流地帯」の著書とあいまち、上富良野町民皆さんの郷土を思う素晴らしい団結力と不屈の魂、そしてその背景にある高い文化性には大いに共感し、感銘したところでありました。
自衛隊という国の防衛を任務とする国家機関と市町村等地方公共団体という住民の福祉を任務とする地方機関は、詰まる所「国民・市民の命と暮らしを守る」と言う点において、双方の努力により、当時、既にして共通の目的認識を保有しており、さすれば、まさに小異を捨て大同に就くのが道理でありますし、小異を捨てる寛容の心があれば、調整は可能であり、またそのような空気が働いていったに違いないと思ったものでありました。そうしてそのシステムが上富良野町においては、高い文化性に裏打ちされた全体を見る見識と将来を先見する知性が確実に機能し、良好な関係が保持されていったものと私は考えております。
着任した翌年、昭和五十五年はこの駐屯地が開設されて二十五周年、四半世紀に及ぶという記念すべき節目の年でありました。私はこの駐屯地の誕生日を単に自衛隊だけではなく、町の皆さんと共に祝い、この町と共にある自衛隊、共に生きる自衛隊の共存と共働の絆を更に強くし、不動のものと致したいと強く考えたところでありました。
その為には歴史の一ページになるべきイベントと共に、末永く歴史として評価され、検証するにたる「モニュメント」を町民の皆さんと共に創り上げたいと考えました。
早速、和田松ヱ門町長、一色正三商工会長、菅野學農業協同組合長さん方を中心に、関係議員、自衛隊協力会の幹部の方々、ライオンズクラブ等諸団体に相談させて戴き、ご理解を戴くと共にまことに力強いご協力を頂戴致し、上富良野駐屯地創設二十五周年記念行事が開催されることとなったのであります。
その最重点事業が先に述べました末永く歴史として評価され、検証しうるモニュメントとしての「記念碑」の建立でありました。
そして建立されました大記念碑の碑文は「防人ここに励みて国安らかなり」であります。
この碑文の意味する所は、「この駐屯地に集う若き防衛の戦士は、我が北の国土を守るべく、日本全国から馳せ参じた隊員諸君であり、いわば現代の「防人」と申すべきものである。そしてこの「防人」達は上富良野町を核心とする富良野沿線の多くの皆さん方の理解と協力の下、その大きな力に支えられて国の守りに、災害から市町村民の命と暮らしを守り、この地域の安寧と明日への活力を担うべく、力強く活動している。更に国のため、地域のために励んでもらいたい」という意であります。
この碑文は墨痕鮮やかに和田町長が揮毫されました。そして、この記念碑を取り巻くように、寄り添うように、支えるように、六つの石が配置され、それぞれの石には、富良野市、上富良野町、中富良野町、美瑛町、南富良野町、占冠村の名を刻したのであります。
私はこの碑の建立と碑文の意味する所は大変意義深いものと思っています。それは二十五周年という各種記念行事を事実上強力に仕切って戴いた上富良野町そして沿線の市町村の自衛隊に対する思いと期待が強く滲み出ているからです。まさに自衛隊と地域のこれから進むべき方向として、共存共栄の理念が歴史的に宣言されたものと認識するからです。
この碑は久しく駐屯地正門に設置されていたのでありますが、駐屯地の拡張、装備の充実等により、正門が手狭となり、正門の拡張ともに駐屯地内公園に移設され、現在に到っております。平成十七年、上富良野駐屯地は創設五十年を迎え、五十周年記念式典及び関係行事を盛大に挙行いたしました。私は五十年という年月は、自衛隊がこの地の歴史と融合し、この地の歴史を語る時、そして歴史を評価する時、更には町の将来を考える時、学ぶべき歴史となり得たのではと考えております。

掲載省略 写真 正門前の石碑
掲載省略 写真 公園移設後の石碑
掲載省略 写真 昭和55年6月22日駐屯地創立25周年記念行事
上富良野駐屯地歴代司令名簿
階級 氏名 最終階級 階級 氏名 最終階級
初代 1佐 鳴川  勝 1佐 16代 1佐 吉崎  格 陸将
2代 1佐 小林敬四郎 1佐 17代 1佐 宮中 正壽 陸将補
3代 1佐 中村 正人 1佐 18代 1佐 小川 敏彦 陸将補
4代 1佐 佐賀 勝郎 1佐 19代 1佐 磯島 恒夫 陸将
5代 1佐 高杉 恭自 陸将 20代 1佐 澤田 徹夫 陸将補
6代 1佐 曲  寿郎 陸将 21代 1佐 野中 光男 陸将
7代 1佐 市来 陸紀 陸将補 22代 1佐 三島 忠雄 陸将補
8代 1佐 西依 嘉彦 陸将補 23代 1佐 佐藤喜久二 陸将補
9代 1佐 田中  潔 陸将 24代 1佐 伊藤 道彦 陸将補
10代 1佐 大松和三郎 陸将 25代 1佐 片山 和美 陸将補
11代 1佐 佐藤 久美 陸将 26代 1佐 光永  保 現役
12代 1佐 宗雪 美敏 1佐 27代 1佐 市野 保己 現役
13代 1佐 一色 敏郎 陸将補 28代 1佐 鑷川 泰久 現役
14代 1佐 矢野 龍男 陸将 29代 1佐 鈴木 直栄 現役
15代 1佐 森野 安弘 陸将        

森野安弘氏の経歴
現在 森野軍事研究所 所長
略歴 防衛大学校 第一期生
第十五代上富良野駐屯地司令
陸上幕僚監部防衛部長
第八師団長
東北方面総監

機関誌  郷土をさぐる(第26号) 
2009年3月31日印刷   2009年4月1日発行
編集・発行者 上富良野町郷土をさぐる会 会長 成田 政一