郷土をさぐる会トップページ     第13号目次

「郷土文芸」

短  歌 噴煙短歌会会員作品

むらさきの風は香りて恍惚のひとときのありラベンダーの丘   井上 俊孝
むとせ移り住み六歳を過ぎし上富良野生れ故郷と思ふこの町
草も木も吾をも染むる夕茜風ひいやりと秋深みゆく

二ヶ月の猛暑に地球はよく耐へて豊作の田を風わたしたり    大場 夏枝
若き日に汗と涙を分け合ひし人生峠に夕陽燃えたつ
われ一人人生航路を津々と神秘の霧に包まれてゆく
日輪は時計の針の早さ持ち明日への光抱きつつ沈む       大道美代子
北國の季節に添ひ来て幾十年悔ゆることなく今日も生きをり
荒れ狂ふ地吹雪に道ふさがれぬ迷ひつつゐる人生かとも

山鳩や薮うぐひすの鳴くこゑに誘はれて来しふるさとの山    岡本 静子
朝夕な火の山仰ぎ詠ひゐし耕人佛もこの車座に
継続は力と言ひし師の君よ祥月命日まためぐりくる

雪虫のたをたをと舞ふ日暮れどき妻を待ちつつ造園をなす    門崎 博雄
夕光に氷柱は朱くかがやきてわが哀しみのしずくを零す
雪原の光のなかに跳ぶごとく足型ありき鹿の群れゆく

吹きしきる風に裏葉のさはだちて秋深みゆく十勝岳のみち    久保 美音
数珠入れの小さき袋は亡姑のもの持ちて詣ずる我も老いたり
唇にうす紅少し引きながら老いづく吾の華やぎてをり

アイヌ川ピリカ川をも越へられず故郷はるか野火わたりゆく   佐々木宏子
サロベツの原野の夏のひとり旅流人のごとく野あざみをつむ
哀しみの器のごとき紫陽花の深き藍色咲きこぼれくる

離農して灯らぬ家の淋しさに吾れの行く末重ね見ており     中野とみ子
汗腺を残らず浄化猛暑過ぐゆるやかに秋風に身を置く
送別の席立ちがたく離農する友と座しをり秋の夜の冷え

豊作に草取る手足踊り来る上川盆地十勝の裾野         成田美喜子
短歌会月に一回催せり郷土の人と交流の日
天空に和田翁の碑そびえ立つ開拓百年ま近にありて

姉米寿妹は喜寿われ傘寿早逝の父母が守りくれしか       水谷甚四郎
抑留時血肉となりしアカザ草今敵となり畑より投ぐ
わが里の老いどち造る丹精の花壇コンクール三連覇成る

霜月の蛙一匹庭のべに退院の吾れを耳うつがに啼く       矢野 勝己
老の坂踏み見れば早や七十路いそがぬ旅の足のはやさよ
会話集ひもとき問ひつ解かれつつホーステー睦むサハリンの宵
人けなき廃校の庭さびさびととり残されし金次郎の像      山川ひさ乃
木枯に水じわ深くたたみつつ落葉浮かべて黙す鳥沼
風吹けば呆けたんぽぽ落下傘いづこの土に命育む

から松の色づく山にわけ入れば吾も染りぬ晩秋の燦       渡辺 房子
金色のから松の山に秋の陽は華やぎ合ひてひとときは夢
移りゆく自然のなかに生かされてゐると思へど遠き月日よ

俳  句 このみち俳句会・りんどう俳句会 会員作品

夕雲は空の五線譜雁わたる   赤間 玲子
冬日向定期便めく人の来て
深爪をなだめ日永の豆を選る
塾生の帰る街角夜涼の灯
かりがねや夕日しづもる句碑の裏

哀愁を帯しムックリ春情しむ  岡崎トシ子
春日差し小熊戯むるコタンかな
人影の吸はるる如く冬霞
コンサート聴く会場に菊匂ふ
日の短か折鶴蘭の陰深し

西行忌北に住み古り花を恋ふ  金子 スミ
ほころびし梅の下ゆく女子駅伝
轢かれたるまま草萌ゆる轍跡
センサーで鳴く囀りや展望台
時雨るるや南へ旅す蜂巣箱

一戸残る開拓村に雪来る    佐藤 節子
初日の出おろがむ双手素直なる
育つ子の肩上げ少し針始め
麻痺の手を取りて春日を分ちあふ
師の忌日近づく青田青極む

かくれんぼ孫の素足の静止せず 鈴木つとむ
融雪剤縞織りなしてうねる丘
佇める土手の孤老に辛夷咲く
輪に入ればみな佛顔盆踊り
雪虫の舞ひさだまらず纏わりて

天界に義経の凧据りけり    千々松絢子
箱書は祖父の筆なる雛飾る
ひなげしの寄れば花びらおののきぬ
秋あかり人形言葉欲しげなり
もの思ふ歩幅となりて枯野径

鉢巻のそこだけ白き大暑かな  丸山美枝子
あじさゐの花重々と喜雨に濡れ
一粒の雨を掌に受く日照畑
昼寝せる村森閑と大早
雨欲しき花あじさゐのあはれなり

山の相木の相ゆるみ里の春   田浦 夢泉
酒気少し入れて寝につく耕疲れ
ルピナスを撮る背景に噴火山
草の実の道より低き遭難碑
冬の里人の往き来のあたたかく

秋晴れや街を見下ろす峠路   足立 紫岳
歳月やめくる手じわの秋暦
向陵に画夫一人見ゆ秋の丘
一輸の野菊のこりし散歩道
ショッピング冬物浮き立つ暮色の灯

雪降れば円らな犬の日が踊る  加藤 輝子
俎の弾み勤労感謝の日
風邪の膳許されてゐるさぐり箸
軒低く点して隠る雪五尺
佇んで足跡までも母に似し

碧き夜の月の色なす霧氷かな  菅野 朝子
薄雲に凍れを包む十勝岳
豪雪や太く巻き込む紅生姜
悴みし指いとほしきパート妻
あかときの月皓々と春立てり

新緑に若き山彦生れけり    白峰 亀庵
初燕ガラスを走る硝子切
秋空を高く拡げて庭師去る
鈴の緒の心もち揺れ神還る
枝ぐせを封じこめたる雪囲

ともしびを足して仕上げる菊作り 菅原千代
枯小菊ほのほとなりて香りをり
鰊漬ほどよき味に朝の凍て
大菊も小菊も見事文化祭
夕焼の目にしむごとし剪定す

開幕の太鼓の遠音雪祭     平塚 雅子
朝顔に八つの名札僻地校
雪渓や名だたる峰を指呼の間
朝よりの暑さ佛飯盛りあげて
山荘の看板朽ちて山滴る

春月を映しゆらめく鳥羽の海  吉岡 光明
春眠を乗せ一輌車駅々に
往診の獣医枝豆おろしをり
新蕎麦を妻打つ音や母の音
露天風呂秋の旅人京なまり

機関誌 郷土をさぐる(第13号)
1995年6月25日印刷  1995年6月30日発行
編集・発行者 上富良野町郷土をさぐる会 会長 高橋寅吉