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1章 上富良野町の自然と環境 第4節 上富良野の植物 47-48p

1 上富良野の森林状況

 

 平野部の植生

 上富良野の中心部(市街地)の南部から中富良野町にかけての平地は、そのほとんどが水田地帯で覆われている。その中に、畑地がモザイク状に見られる。

 一方、北部から美瑛町にかけては、逆に畑地が優占している。

 水田は街の北はずれにややまとまった面積が見られるだけで、あとは東神楽町に至るまで、牧草地や落葉針葉樹植林地(ラクヨウ、すなわちカラマツの植林地)、そして谷筋に残された雑木林(イタヤカエデやシナノキなどを中心とした広葉樹林)などをパッチ状に点在させながら、ずっと農作地がのびている。

 町の西側は、芦別方面との境界線となる幌内山地の丘陵地である。上富良野側には南北にカラマツの植林地が続いているが、山地に入るとエゾマツやトドマツの針葉樹、ミズナラやイタヤカエデ、シナノキなどの広葉樹とが入り混じった「針広混交林」と呼ばれる森が広がっている。また、この辺りにはトドマツの植林地も目立つ。

 中心街から東部は十勝岳山麓へとつながるなだらかな丘陵地帯となっており、虫喰い状に点在する雑木林のほかは、森のほとんどがカラマツの植林地となっている。山裾には広大なササの草原が見られるが、これは陸上自衛隊の上富良野演習場である。場内にはわずかながら、まとまった雑木林がいくつか点在しているほか、針葉樹の植林も見られる。

 日の出地区から旭野地区、中茶屋を経て十勝岳温泉へと至る道道吹上・上富良野線周辺には、カラマツ植林地と畑地、雑木林、シラカンバ林などが見られるが、中茶屋より先からは森の様相が変りはじめる。町道吹上線との分岐付近からは、周囲を造林地とシラカンバにはさまれつつも、トドマツやミズナラの針広混交林がはじまる。道は前方に山を望みながら、標高をどんどんあげていく。やがて標高760b付近から、あたりはエゾマツ・トドマツ主体の林となる。これは、高木層でエゾマツとトドマツが優占種となり、そこへいくらかのダケカンバやアカエゾマツが混じるというもので、大雪山系ではこのタイプの森が最も広い面積を占めている。白金温泉の北東部に広がる森もそうであるし、また富良野市の名高さ原生林である東大演習林の森は、エゾマツとダケカンバのつくる針広混交林が主体である。

 

 十勝岳温泉付近の植生

 吹上温泉への分岐でいちどシラカンバの林となった後は、右手にエゾマツとダケカンバの針広混交林、左手に見事なアカエゾマツの森を見ながら十勝岳温泉へと至る。同温泉から吹上温泉に至る北部一帯にかけては、このアカエゾマツ単独優占の高木林が続き、泥流跡のシラカンバ再生林内にもパッチ状に分布し、白金温泉周辺までのびている。

 十勝岳温泉(標高1270b)より先では、高木が見られなくなり、ハイマツとコケモモ、ウラジロナナカマド、ミヤマハンノキ、ウコンウツギなどが優占する低木林となる。山では、標高が高くなるにつれて、大きな樹木は生育できなくなり、やがて背丈の低い矮生樹や草本ばかりとなる。これを森林限界という。十勝岳周辺の場合、概ね標高1200bから2200bの付近でこのラインを迎える。ハイマツ、エゾイソツツジ、シラタマノキなどの高山植物が点在する岩礫地となるのである。しかし前富良野岳〜富良野岳〜三峰山〜上ホロカメットク山にかけての稜線付近には、礫地にハイマツと共に高山植物群落を見ることができる。一方、旧噴火口の一帯と十勝岳〜前十勝の噴気孔一帯、そして美瑛岳へと至る稜線地域は、そのほとんどが殺風景な裸地(無植被地)帯となっている。

 十勝岳の東および北西斜面(十勝岳避難小屋付近)には、泥流跡地の植生である「新期火山荒原草本群落」と呼ばれるイワブクロ、メアカンキンバイなどの泥流岩礫地上の高山植物群落がある。

 その下方にはオオイタドリなどの高山植生とはいえない草本が発達し、やがてカンバ類の火山再生林が現れる。ここでは上部がダケカンバ、下部がシラカンバ・ウダイカンバといった構成になっている。また旧噴火口北部には、ハイマツ帯を虫喰うようにして、上からミヤマハンノキ→チシマザサ→ダケカンバの順にわずかながら樹木の分布が見られる。

 新しい火山活動の影響を受けていない富良野岳では、山裾の自衛隊の演習場に至るまでの間に、標高にあわせて植生が変化するという、植物の垂直分布を見ることができる。頂上付近は雪田の高山植物群落が見られ、そのまわりをハイマツ帯が覆っている。

 南斜面(原始ケ原方面)にはアカエゾマツ林が広がるが、北西斜面(演習場方面)では、チシマザサ→ダケカンバ林→エゾマツ・ダケカンバ林→エゾマツ・トドマツ林と、山を下りるにしたがって、優占樹種構成が移行していく様がよく分かる。