郷土をさぐる会トップページ    上富良野百年史目次

1章 上富良野町の自然と環境 第1節 上富良野の自然地理 6-12p

3 上富良野町の気候

 

 気温と降水量

 上富良野で観測された各気候要素の平年値は、年平均気温6.5℃、年間降水量約900_b、最寒月平均気温マイナス9.5℃、最暖月平均気温22.6℃、夏の最湿潤月降水量130_b、冬の最乾燥月降水量40_b、月平均気温10℃以上の月数は5カ月である。これらをケッペンの気候区分の基準と照らし合わせると、上富良野は冷帯湿潤気候(Dfb)に当たる。この気候の典型的な特徴は、平均気温が比較的暖かい割に年格差の大きい大陸性の気候である。札幌や、スウェーデンのストックホルムなども同じ気候区分に属する。上富良野の夏の最高平均気温は20℃を越える一方で、冬は長くて厳しい。最低平均気温がマイナス15℃前後に達する年もある。

 各月平均気温と各月降水量との関係で表されるハイサーグラフで示してみると、温暖湿潤気候(Cfa)に属する東京のグラフパターンとは明らかに異なることが分かるであろう(図1−2参照)。上富良野と札幌のハイサーグラフを比べてみると、形は比較的似通っているものの、上富良野の方が冬期の寒さが少し厳しくなっている。上富良野と札幌の、冬期の寒さの違いは、積算寒度値という指標で比較してみると一層よく分かる。積算寒度値とは、冬期(11月〜4月)において日平均気温が氷点下の日を抽出し、それらの日の温度の値(絶対値)を合計したもので、土や湖沼の凍結の厚さに最も関わりのある値と言われている。算出法は例えば、日平均気温がマイナス1℃の日が30日間、マイナス2℃の日が20月間、マイナス3℃の日が20日間、マイナス4℃の日が15日間あったとすると、(1×30)+(2×20)+(3×20)+(4×15)=190℃・日となる。図1−3は、世界の様々な都市について、積算寒度と夏の最曖月平均気温をとって比較したグラフである。夏の平均気温が同じ程度であっても、冬の寒さ、すなわち積算寒度にはかなり幅が見られる。このグラフに上富良野の平均的なデータを当てはめてみると、旭川や帯広と同じような場所にプロットされる。しかし、ケッペンの気候区分では同じ区分に含まれる札幌やストックホルムとは、冬期の寒さに明らかに違いが見られることが分かる。ただし、この積算寒度は年によってかなり値に幅があり、上富良野もモスクワやアンカレッジの平年値と同程度の寒さになることもある。

 また、ハイサーグラフによると上富良野は、全体的に降水量が札幌より少ないことが分かる。とくに、冬期の降水量(実際は降雪の水当量)の違いが顕著である。上富良野のある富良野盆地は、北海道の中でも降水量の比較的少ないところである。昭和58年〜平成7年の年降水量の平均は、824_bである(表1−1参照)。ただしこれには記録的な小雨であった昭和59年と61年の値が含まれている。昭和16年〜平成7年の平均では、930_b程度になる。昭和58年〜平成7年の各月降水量を計ると、とくに降水量の多い月は8月と9月であり、平均して210_b程度で、多い年には300_bを上回ることもある。

 上富良野町では、行政区域内における安定した水道資源の確保を目的とした『上富良野町水資源調査報告書』を昭和61年にまとめている。この中で、昭和51年〜60年の気象データを用いて、有効雨量と蒸発散量の差として余剰水量が算出され、これに行政区域内面積を掛けて水資源賦存量が求められている。その結果によると、10年間の平均では余剰水量が年間200_bで、可能最大水資源賦存量が約4800万立方bとなっている。

 この余剰水量の10年間平均値は、渇水年の北海道全体の値と比較してもその3分の1程度にしかならず、上富良野は余剰水量が他の地域と比べて極めて少ない所と言える。

 昭和16年〜平成7年のデータより、上富良野の最高、最低気温及び降水量の極値を調べてみると、昭和18年7月21日に最高気温37度、昭和52年1月29日に最低気温マイナス32.4度、昭和3年に最大の年間降水量2157_b、昭和56年8月4日に最大の日降水量222_b、昭和45年3月18日に市街地付近の最大積雪深220abを、それぞれ記録している。

 

 

1−1上富良野の平均気温と降水量(昭和53年から13年間)月別平均気温

月/年

昭和58年

59年

60年

61年

62年

63年

平成元年

2年

3年

4年

5年

6年

7年

平均

1

7.9

10.7

13.2

10.9

9.5

6.9

6.8

10.1

5.3

7.6

6.0

10.7

8.3

8.8

2

9.3

11.2

6.4

11.0

8.8

11.1

6.6

4.7

8.2

6.9

6.3

5.9

7.9

8.0

3

3.9

6.0

3.3

4.4

3.3

3.6

0.3

0.9

3.0

3.0

2.7

4.0

2.9

3.2

4

8.0

2.6

6.3

4.5

3.3

4.8

5.3

5.6

5.9

4.7

3.8

4.0

5.3

4.9

5

11.3

11.3

11.3

10.1

11.5

10.1

10.2

12.3

12.0

10.7

10.4

11.8

12.4

11.2

6

12.1

18.1

14.7

14.5

16.7

17.0

14.4

17.1

18,3

15.7

14.8

16.1

15.6

15,8

7

17.5

21.5

20.0

18.0

19.4

17.6

21.2

20.6

18.7

19.4

17.9

21−8

20.9

19.6

8

21.1

21.6

23.0

21.4

18.9

21.9

21.4

21.3

19.5

19.4

18.6

23−2

19.4

20.8

9

14.7

14.8

14.0

15.2

15.9

15.0

15.9

15.9

15.4

13.6

14.7

17−3

14.7

15.2

10

6.0

6.9

8.2

6.0

8.5

7.6

8.7

9.5

9.9

8.4

8.1

9.1

9.8

8.2

11

1.8

0.0

1.3

0.6

0.3

1.6

3.5

4.1

1.5

1.9

2.2

2.4

2.8

1.6

12

7.7

5.9

8.3

6.5

5.9

3.3

4.6

1.4

4.7

4.0

4.4

5.9

4.0

5.1

年平均気温

5.3

5.3

5.6

4.8

5.6

5.6

6.9

7.4

6.7

6.0

5.9

6.6

6.5

6.0

6〜8月平均気温

16.9

20.4

19.2

18.0

18.3

18.8

19.0

19.7

18.8

18.2

17.1

20.4

18,6

18.7

農作期間(5月〜9月)積算温度

2,350.9

2,673.4

2,544.3

2,425.5

2,521.8

2,497.6

2,545.8

2,670.2

2,567.2

2,413.5

2,338.9

2,762.8

2,542.7

2,527.3

 

月別降水量

月/年

昭和58年

59年

60年

61年

62年

63年

平成元年

2年

3年

4年

5年

6年

7年

平均

1

66

52

37

27

58

61

50

56

42

52

52

62

42

51

2

20

31

36

30

44

41

24

29

37

60

41

63

18

36

3

16

13

26

48

82

36

53

24

55

29

14

49

34

37

4

27

9

47

60

46

47

72

72

49

47

60

36

79

50

5

39

28

44

78

73

26

66

25

26

45

64

75

75

51

6

66

46

22

18

36

68

41

90

66

47

95

62

52

55

7

67

64

94

34

154

11

14

24

91

139

24

49

71

64

8

113

21

68

57

132

116

146

125

40

210

90

230

217

120

9

57

46

175

116

43

61

122

211

78

205

91

223

103

118

10

138

79

127

56

77

95

89

47

69

55

123

50

137

88

11

47

67

89

76

106

93

111

71

107

111

87

80

110

89

12

65

43

70

60

60

64

74

54

54

89

98

87

37

66

合計

721

499

835

660

911

719

862

828

714

1,089

839

1,066

975

824

出典札幌管区気象台『北海道気象月報』

 

 図1−2上富良野・札幌・東京のハイサーグラフ

   小さい黒丸は昭和59年〜平成5年の各年データを示す。四角はその平均である。

   福田正己『低温とくらし』(昭61)に加筆

  ※ 掲載省略

 

 図1−3最嗄月平均気温と積算寒度の関係

  ※ 掲載省略

 

 四季の移り変わり

 次に、上富良野の四季の移り変わりを概観する。図1−4に、昭和57年〜平成7年について、上富良野の市街地における晩雪、晩霜、山桜開花日、満開日、初霜、初雪、根雪、及び十勝岳初冠雪に関する季節表を示してある。上富良野市街地の根雪が消えるのは、早い年で3月下旬、遅い年で4月の下旬である。また、その冬最後の雪が降る日(晩雪)は、早い年で4月の中旬ぐらいであるが、山桜が満開となる5月中旬より後に降る年もある。その冬最後の霜が降りる日(晩霜)は山桜の満開の頃か、遅くて5月末頃である。夏が過ぎ、次の冬に向かう時期に入ると、十勝岳が初冠雪して市街地周辺に初霜が降りるのが、9月下旬から10月中旬にかけての頃であるが、両者の順番は年によって前後する。

 記録的な冷夏に見舞われた平成5年には、真夏の8月上旬に十勝岳初冠雪を記録した。市街地周辺に初雪が降るのが、早い年で10月中旬、遅い年で11月初旬であり、根雪に覆われるのが、早い年で11月中旬、遅い年で12月上旬である。根雪期間(日数)は、長い年で160日間、短い年で110日間程度である。なお根雪の期間は、前年の根雪初日から当年の根雪終日までをとっている。また、年間の総日照時間は、長い年で2500時間程度、短い年で1300時間程度となっている(図115参照)。次に真夏日(日最高気温が30度以上の日)と真冬日(最高気温でも氷点下の日)の日数を見てみると(図1−6参照)、真夏日は多い年で20日程度、少ない年ではわずか1日だけという時もある。一方、真冬日日数の方は、多い年で100日程度、少ない年で60日程度であり、平均すると年間80日ぐらいである。

 各年の真夏日日数の経年変化(図1−6参照)と夏場の月平均気温(表1−1参照)には、ほぼ5年〜7年単位ぐらいで一山というような増減変動が見受けられるが、この変動は、エルニーニョ現象の発生と概ね対応しているようである。エルニーニョ現象とは、元来赤道太平洋東部のペルーやエクアドル沖で海面水温が一時的に上昇する現象に付けられた名称で、最近の研究により、赤道太平洋全海域と地球規模の大気大循環との密接な相互作用により生ずることが分かってきた。東アジアの大気の流れは夏と冬とでは大きく異なっているので、エルニーニョの日本の天候への影響も夏と冬とでは異なる。一般には、冬季は偏西風が強くて寒気が南下するのを阻止するので暖冬になりやすく、夏季は北太平洋高気圧が北上しにくいため冷夏となる割合が高まると言われている。

 上富良野でも、エルニーニョ現象が発生していた昭和51年〜52年、54年〜55年、57年、61年〜62年、平成4年〜5年などの年は真夏日の日数が少なく、それらの間隙の年で多くなっている。しかしながら、冬季の真冬日日数や月平均気温はエルニーニョとの対応はとくに見られず、それ以外の要因がより深く関与しているものと考えられる。その他に気づくこととして、ちょうど平成に入ってからの7年間とそれ以前の5年間(昭和59〜昭和63年)とで、平成の7年間の方が春季に早く雪が無くなって次の冬が来るのが遅い(つまり降雪期が比較的短い傾向にある)ことや、総日照時間が昭和62年頃から平均的に減少していることなども興味深いが、それらの原因を考察するには天候の記録をもう少し詳しく見る必要がある。

 

 

 図1−4上富良野諸季節

   出典 農業改良普及所上富良野駐在所『上富良野町各年度別気象概況』(平8)

  ※ 掲載省略

 

 図1−5総日照時間と根雪期間の経年変化

   出典 農業改良普及所上富良野駐在所『上富良野町各年度別気象概況』(平8)

  ※ 掲載省略

 

 冷夏

 上富良野は、これまで時折冷夏による冷害に見舞われることがあった。最近の例では、平成5年の夏が記録的な冷夏であった。

 この年は全国的な冷夏であったが、上富良野でも真夏日が1日しか記録されず、低温に日照不足が重なって農作物の作況指数が15という大冷害を被っている。この年は、真夏になっても本州の太平洋南岸に前線が停滞し、例年なら暑い夏をもたらすはずの北太平洋高気圧が北上できなかった。エルニーニョ現象が発生しているときに見られる典型的な傾向と言われている。そのため、オホーツク海高気圧から冷たい北東風が吹きつけ、曇りや雨のぐずついた天気が続いて太陽が照らず、気温が上がらなかったのである。このようなタイプの冷夏は「全国冷夏型」と呼ばれている。

 また、北海道は昭和39年にも顕著な冷夏に見舞われているが、このときはオホーツク海に低気圧があって北日本に北西からの冷たい風が吹き、低気圧や前線が頻繁に通過するために天気が悪く冷夏になったとされている。このケースでは西日本は高気圧に覆われて暑い夏になることから「北冷西暑型」の冷夏と呼ばれている。

 北海道の水稲の不作被害は、大部分が冷害によるものと言われている。6〜8月の平均気温と冷害被害率(その年の冷害による被害量を平年収量で割ったもの)との関係は比較的明瞭で、6〜8月の平均気温が19℃以下になると、冷害被害率が20lを越える危険がかなり高くなることが指摘されている。逆に20.1℃を越えていれば、冷害はほとんど発生しないらしい。上富良野では、昭和58年〜平成7年の22年間のうち半分以上の年で6〜8月の平均気温が19℃を下回っており、注意が必要である(表1−1参照)。また、農作期間(5〜9月)の積算温度(日平均気温の積算値)も、水稲の豊凶を左右する重要な指標とされており、2400℃・日が栽培の限界とか、2500℃・日が安全限界などと言われている。上富良野の場合、昭和58年〜平成7年の22年間の平均では2500℃・日を上回っているが、2400℃・日を割った昭和58年や平成5年には、やはり大きな冷害を被っている。

 

 図1−6 真冬日と真夏日の経年変化

   出典農業改良普及所上富良野駐在所『上富良野町各年度別気象概況』(平8)

  ※ 掲載省略

 

 

 台風と集中豪雨

 上富良野はこれまでに、たびたび大きな水害や土石流による被害を受けてきた。北海道開発局旭川開発建設部がまとめたところによると、明治31年〜平成元年の間に、富良野川、ヌッカクシ富良野川など諸河川の氾濫により、水害が26件、豪雨による土石流災害が6件記録されている。最も頻度の高い時期は、台風の通過や低気圧性の集中豪雨に見舞われる7月〜9月の夏の時期である。5月〜6月の融雪期にも比較的多く発生している。

 北海道の大雨と災害の関係をみると、日雨量50_b以上で低い土地で浸水が発生し、100_b以上になると中、小河川の流域で洪水が起こり始め、一雨の積算雨量が100〜200_bの降雨域が広ければ、大河川流域でも洪水を起こす恐れがある。降雨による災害の一応の目安として、その地域の年間降水量の20分の1の量が1日で降ると災害が起きるということが指摘されている。北海道の年降水量は平均で1200_b弱であり、したがってその20分の1は60_b弱となる。道内各地の大雨注意報の基準が日雨量50_bの地域が多いのも、この関係とほぼ符合している。上富良野では年降水量の平均が900〜1000_b程度で、比較的多い年で1200_bを超える程度であるから、やはり日雨量が50〜60_bを超えたときにはとくに警戒を要する。しかし、その地点の雨量の多い少ないだけが一義的に災害と結びつくものではない。地形や地質も大雨災害に介在する重要な因子であり、とくに十勝岳連峰の山麓に位置する上富良野では、各河川の上流に多量の火山砕屑物や溶岩など、土石流の母材となるものが豊富に存在するため、小規模であってもひとたび土石流が発生すると、大きな被害に発展しやすい。

 過去、上富良野に被害をもたらした主な台風、豪雨の記録を、旭川開発建設部の『十勝岳災害関連緊急事業の記録』からたどってみる。まず台風の通過に伴って発生した豪雨としては、昭和7年8月4〜6日の台風、昭和33年7月11〜12日の台風11号による洪水、十勝岳噴火直後の昭和37年8月3〜4日の台風9号による洪水(上富良野での積算雨量102_b)、昭和5年8月22〜24日の台風6号による洪水(上富良野での積算雨量211_b)、そして昭和56年8月3〜6日には台風12号と前線の通過による洪水(上富良野での積算降水量277_b)が発生している。また、台風以外の豪雨による主な災害としては、明治31年9月6〜7日、明治37年7月9〜11日(上富良野積算雨量157ミリb)、同年8月の洪水、昭和32年7月6日の寒冷前線通過に伴う局地的強雷雨、昭和33年7月11〜12日の洪水(上富良野積算雨量114_b)、昭和36年7月24〜27日の洪水(十勝岳での積算雨量217_b)、昭和38年8月24日の土石流災害(上富良野積算雨量131_b)、昭和41年7月7日と8月12日の集中豪雨によるヌッカクシ富良野川における土石流災害(十勝岳積算雨量、7月7日−17_b、8月12日−30_b)、同年8月17〜20日の洪水(上富良野積算雨量198_b)などが記録されている。