郷土をさぐる会トップページ     第10号目次

「郷土をさぐる」と関って

北向 一博 昭和二十八年五月五日生(三十八才)

郷土をさぐる会との出合いの発端
私が教育委員会社会教育課に勤務したのは、昭和五十四年四月から六十三年三月までの九年間ですが、この間併せて郷土館事業も担当しました。
郷土館は、明治三十年の上富良野開基以来の貴重な郷土資料を集め、開基八十周年を記念して昭和五十三年五月に開館しました。町内外の多くの篤志家の浄財を基本財源にしており、多くの資料も寄贈あるいは預託によるもので、住民の総意で念願の開館がかなったものであると聞いております。
当時郷土館建設実務は、野尻社会係長(現町立病院事務長)が中心になっており、係員に中田主事(都市計画課)、更に北海道教育委員会派遣の村端社会教育主事(現南富良野町幾寅小学校教頭)を加えて事務が進められていました。
私は開館に合せて郷土館係が社会教育係と兼務の形で新設され、昭和五十四年度の人事異動で、中田主事の後任で社会教育係兼郷土館係として勤務することとなったわけです。

郷土館事業と歴史証言資料
着任時には、郷土館開館からほぼ一年を経て施設運営上の様々の基本的な問題や課題が殆ど解消し、また資料分類もはぼ完了しており、今後の郷土館事業等のあり方についての道筋も既につけられておりました。この郷土館事業の中で、開館前から郷土資料の収集と保存の一環事業として、緑町の岩田賀平さん、加藤郷土館指導員(元上富良野町助役)等が中心となって、継続的に進められていた「古老の声収集事業」の成果が、生の録音の形で多数のカセットテープに収録されていました。
このカセットテープには、町開基以来の上富良野つくりに直接関わった歴史の生き証人としての貴重な証言が納められており、その内容は、加藤郷土館指導員と臨時職員として勤務していた畠山(現正木)さん、多地(現岩田)さん等により順次原稿用紙に文章化されたもので、既に故人となった方のものはなおさらですが、資料の貴重性は認識されておりました。
郷土をさぐる会の結成と機関誌の発行
このような経緯を背景に準備期間を経て、町教育委員会の発起によって識見の広い方々に参加いただき、昭和五十五年十二月十六日上富良野町公民館で金子全一氏を会長に郷土誌研究会「上富良野町郷土をさぐる会」(当時三十八名)が発会しました。
郷土をさぐる会の当面の事業目標は、こうした収録済みの歴史証言と新たな寄稿や採録による郷土資料を冊子として発刊することでしたが、発刊に必要な経費がかなりの額に及ぶ上に、いかにして資金調達と発刊を継続的に行なうかが大きな課題となっていました。このため会の結成と並行して町当局及び道や国の補助制度の適用について検討を始めたところ、北海道教育委員会の所管する教育振興奨励費補助事業が適用できそうな見通しとなったため、とりあえず昭和五十六年度の希望調書を提出して採択の可能性を模索することとなりました。
しかし上川教育局見解としては、補助対象事業者は公に認められる継続的な活動実績がある団体となっていることから採択は難しいとの回答でありました。
しかし当時の平塚教育長と山崎社会教育課長が上川教育局に活動主旨と事情説明を行った結果、今後の継続的な事業実施を条件に、事業費の三分の二以内、上限額百万円の満度額の昭和五十六年度補助事業として採択されることになりました。
補助対象事業費百五十万円の自己負担額五十万円については、三十八名の会員会費のほかに百二十八件の町内の商店等の事業者や個人に賛助会員会費をお願いして調達し、郷土をさぐる会機関誌「郷土をさぐる」第一号(昭和五十六年十月予定)、第二号(昭和五十七年三月予定)の発刊を補助対象事業として船出をしたのでした。
第一号については準備期間が比較的長くとれた事から予定の十月発刊には漕ぎ着けましたが、年度内に第二号を発刊するためには、第一号と並行した編集作業が必要で苦労のトッカン作業の連続でした。
こうした当時を思い起こすと、冷や冷やの連続であった事を今懐しく思い起されます。
末永い活動に期待して
以来、毎年一号のペースで機関誌が発刊されてきていますが、編集委員さんのご苦労もさることながら、レイアウト、デザインから製本までを採算度外視で引き受けられている旭川市の土井義雄デザイン事務所の土井さんのご協力も特筆しなければなりません。特に読みやすいレイアウトや、要所に配置されている口絵は読者からの好評を得ています。
先にも述べましたが、郷土をさぐる会の出発点は教育委員会の発起にありますが、町内有志による郷土研究を行なう民間団体活動に位置付けられ、この地道ですが粘り強い活動が牽引力となり、郷土館の役割である資料の収集・供用等の事務が協調していくことによって、一つの節目ともいえる第十号の発刊を迎える事が出来たものと考えています。会員の皆さん、特に編集委員の皆さん、そして応援の手を差し伸べられている賛助会員の皆さんの熱意に拍手を送りたいと思います。
最後に、この節目を迎えるまでの一時期に、至らぬながらも編集のお手助けをできたこと、あるいは手をこまねいていれば消え去り、忘れ去られるものの大切さに気付く機会に恵まれたことに心からお礼申し上げ、また第二の節目を目指した末長い活動に期待しながら筆を置きたいと思います。

機関誌 郷土をさぐる(第10号)
1992年2月20日印刷  1992年2月25日発行
編集・発行者 上富良野町郷土をさぐる会 会長 金子全一