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機関誌「郷土をさぐる」発行の思い出

郷土をさぐる会 幹事長 加藤 清
大正八年一月二十六日生(七十三才)

昭和五十二年頃から郷土資料館の建設の事で何回か有志の会合が持たれていました。その中では強く「後世に伝える古老の話を、纏めることを考えられないか」との意見が出ており町民の中からも話題となっておりました。
昭和五十三年の春、私は和田町長に呼ばれ「郷土館が近く開館するので、専門指導員として仕事をして貰いたい」とのことで未経験の私でありましたがお受けした次第です。仕事は開設する郷土館の準備と、開館の運営管理をお手伝いする業務でしたが、翌五十四年の春頃、平塚武教育長から「郷土館の陳列、整理等も一段落したので、古老の声の収録に取り掛って欲しい」と指示され、私はこの仕事に興味を持っていたので、公用車を必要な時使用できることを条件でお受けしました。
その頃、教育委員会に社会教育主事を道職員の身分で派遣する制度ができていて、村端外利先生が本町に来られておられました。企画性に富み諸事熱心な方で、町内八十才以上の方々の名簿もできていましたので、早速古老のお宅を訪ねる計画を立てたのですが、車が公務と重なり計画的な行動ができず困り果て、この事業に深い理解を持っておられた岩田賀平さんに相談しましたところ、快く車を出して同行していただけることになりました。岩田さんと一緒に取材することは私と年令差十一才で、かつ町内の事情に詳しく話題を引き出すことが上手で、その上理解が早く能率的な資料を収集することができました。
このような仕事をするようになって、一般の方とお話をする機会も多くなり、有志の方々の諸先生から「古老の方々との話し合う組織を作ろう」との意見が盛り上がり、昭和五十五年十二月十六日初めての会合が開かれ協議の結果組織を作ることになりました。直ちに設立総会に直し発会したわけで、初代会長に金子全一氏が選任され、会員の意志で経費については他に迷惑をかけないと云うことで、町に対する助成等も要望せず飽くまで自前で運営することに決め発足したのでした。
その後第一回の報告会で会員の皆様から「折角、開拓当時からの貴重なお話が纏ったのだからこれを公表しては」との意見が出され多くの会員の賛成を経て、毎年一回百頁程度の機関誌を発行することになりました。
機関誌の表紙イラストは、当時上富良野高等学校長であった新道展会員丸山恵敬氏の描いたもので、転任の際十勝岳のスケッチブックを一冊ご寄贈いただきましたので、毎年発行時に掲載機関誌を飾ってきました。題字「郷土をさぐる」は金子会長の揮毫によるものです。編集委員は会員の中から選任していただき、投稿者の意志を尊重し編集に取り掛りました。
如何せん始めての仕事で作業は遅々として進まず苦慮しましたが、編集委員のご協力により何とか発行まで漕ぎつけることができました。特に社会教育係長の野尻巳知雄氏、同係の北向一博氏には何かとお忙しいお仕事の中、時間外に校正の作業をお手伝いいただき、又郷土館職員の岩田美幸(旧姓多地)さん、正木佑子(旧姓畠山)さんには録音テープの浄書から写真の現像液の調合まで手際よく処理下されたことに有難くお礼を申し上げます。
印刷製本は、旭川市土井義雄デザイン事務所に発行の趣旨をご理解いただき、諸事ご配意を賜り発行を続けることができました。
発刊当初は尊い資料を活かし何とか後世に残したい一心で印刷することにしましたが、頒布には求め易い価格が第一でなければなりませんので、その検討の結果千部印刷すると適当な価格に押えることができるが、反面余った部数の処置が問題になり、この対策で協議を重ねたところ、会員の責任で全部数を消化することを申し合せ、分担して頒布地区を決め配本分は必ず代金を徴収するお約束で、価格一冊六百円と決め重い責任を感じっつ作業を進めた次第です。
千部と云うことは大きな責任を伴う部数でありましたので、年度末の決算を見る迄は心配でしたが、会計を担当された岩田さんは町内を駆け廻り読者を勧誘し部数の消化に努めていただいたのには頭が下りました。また一方、会長さんのご発案で賛助会員制度を実施することになり、早速町内有志、商店主さんにお願いし多くの方々の心からなるご協力をいただくことができ予想以上の御参加を得て、その反響に驚きもし、喜んだ次第で感謝に絶えません。
五里霧中で取り組んだ仕事でしたが、決算収支も、会の運営にも見透しがつき、第十号を継続、その十号発行に至るまでには紆余曲折幾多の困難な問題もありました。特に当初から苦慮した求め易い価格の堅持では、毎年の物価上昇で製本費用の印刷代は増加するばかりでしたが、当初決めた頒布価格をこの十号まで貫き通すことができたことは皆さんの心に育まれつつ歩んで来た証であると思います。この間、昭和五十六年この郷土誌発行が北海道の地域振興補助事業の対象に指定され補助金の交付を受け、更に、昭和六十二年には地域の教育文化振興に貢献している事に対し郷土をさぐる会は、上川教育長から地域振興文化賞の受賞に輝くことができました。
これらのことを改めて思い起す時、郷土を愛し後世によき伝承をと郷土誌に情熱を傾け、お骨ね折りを下さった同志先輩で、不幸にして他界された方々に深甚の感謝とご冥福をお祈り申し上げる次第です。
最後に、十余年に亘り本会の為に物心両面から御協力頂きました賛助会員の皆さんに、厚く御礼申し上げ今後共よろしくお願いいたします。

機関誌 郷土をさぐる(第10号)
1992年2月20日印刷  1992年2月25日発行
編集・発行者 上富良野町郷土をさぐる会 会長 金子全一